NEXT対談

デザインと一体化したラブニーズ演出と多様性が新たな顧客を創造する 

 昨年の風営法政令改正で新たなスタートを切ることになったラブホテルだが、厳しい市場環境下、負のスパイラルから抜け出せない状況が続く。政令改正によって主流となった4号営業ホテルが、現状を打開し、厳しい環境を生き残るためにどのような方向に向かえばよいのか。独自の取組みで評価される2人の設計デザイナーに、徹底討論していただいた。
  
  ㈲デザインスタジオ ハーフムーン 代表取締役 山口 好孝
  ㈲デコラボ 代表  佐々木 智美
  司会:季刊『LH-NEXT』編集長 多田義則

厳しい市場環境下でも売上増加ホテルはある

――ラブホテルの現状をどのように捉えているのか。まずお聞かせください。
山口 市場環境は、マクロ的(社会全体)にもミクロ的(ラブホテル業界)にも非常に厳しい状況にあります。
 しかしバブル崩壊後の失われた20年のなか、リーマンショックや東日本大震災などの後でも、営業実績を低下させないホテル、あるいは伸ばしているホテルが実際に存在するわけです。
 私自身、この業界の設計に携わって20年以上になりますが、以前からラブホテル・レジャーホテルとは「ユーザーの基本的欲望の昇華装置」と定義してきました。基本的欲望とは自我欲と性欲、つまりユーザーそのもの。昇華装置とはホテルのハード(設備)とソフト(サービス)のこと。この3つの要素が融合し共鳴し合った時に初めて顧客満足が得られ、強い営業体が構築されると考えています。実際に、この3要素の本質を捉えた対応をし、共鳴しているホテルは、前年比で売上2桁増という実績を残しています。現在の厳しい市場環境でも、打ち手次第で売上を伸ばすことはできるといえます。

――女性の視点から見て、現在のラブホテルはいかがでしょうか。
佐々木 私は、商業施設等の壁画や美術造形などのアートワーク中心の仕事をしてきて、ホテルを手掛けるようになったのは8年ほど前からです。当初は、まさに女性客の視点で、もっと自由に、もっと完成度の高いインテリア空間を創りたいと思って参入したのですが、実際に取り組んでみて、やはり宿泊施設として必要な機能やストレスなく過ごせる空間という基本の重要さを再認識しました。基本があっての意匠です。
山口 清掃が行き届かない、嫌な臭いがする、空調の効きが悪い、シャワーの水圧が弱い……基本的な「おもてなし」の精神が見受けられないと、いくら魅力的なデザインや価格設定でもユーザーは決して満足しません。
佐々木 そうです。そして現在では、そういった宿泊施設としての基本と意匠、さらに運営も含めて総合力の完成度の高さが従来以上に求められているように思います。不況とはいっても、ニーズのある施設には、お客様は足を運びお金を払ってくれます。エステサロンも手掛けているのですが、この分野は、不況でもとても元気です。
山口 女性は、美を追求することにお金を惜しみませんね。ホテルのサービスでも、エステセットなど女性目線に対応したものは評判がいいですね。

――昨今、若者層のホテル離れが指摘されていますが……。
山口 実際の利用状況を観察すると、本来の中心顧客層である30代の利用の落込みが著しい。この年代は現在の経済環境の影響を最も強く受け、経済的に困窮し、慎重な消費行動の傾向が強くなっていると分析しています。また、バブル崩壊後に生まれた20代は、消費の発想の基本が節約・倹約であり、そもそも多くを要求しない傾向で、基本的欲望の低下さえ感じ取れます。
 ラブホテルのユーザーのすそ野を広げるためには、もっと「楽しさ」の演出が必要でしょう。愛する人と2人で楽しめる空間。コンセプトやデザインの切り口はリラックスでもハピネスでもいい、とにかく脳内にドーパミンを発生させるような楽しい空間。単に充実した設備の個室空間を提供すればいいというわけではなく、楽しい!また来たい!と思わせる空間。本来の中心利用者層である若者世代への動機付けと、実際の利用行動の促進には、それしかないと思っています。
佐々木 経営者の方々から「コストを掛けられないから、シンプルで飽きのこないデザインを」とよく言われます。でも、シンプルだから飽きがこないかというと、そうではありません。デザインの完成度が高ければ魅力は持続します。お金のない若者層といっても、インテリアやデザインの感性は豊かで敏感です。彼らが魅力を感じるような、完成度の高いインテリア空間が必要だと思います。
 そして4号営業であれば、そこに性的な刺激の要素を“いかにも”的ではなく、自然に取り込んでいく。新しいお客様を創り出していくには、そういった客室空間が必要だと思います。

――各種の宿泊施設の同質化、ボーダレス化については。
山口 むしろ、歓迎すべき傾向の部分もあると考えています。ユーザーは記念日にはシティホテルを、普段の週末はラブホテルをといったように、TPOやシーンに合わせて選択肢の一つとして捉えていると思います。であるならば、同質化により同列に認識されることによって、よりバリューの高いラブホテルへの誘導が期待できるのではないかと考えます。立地とブランドを除けば、設備・システム・サービス・価格など総合的に優れた施設だといえるわけですからね。
 ただし、そこでシティホテルと差別化しようと、4号営業すべてで性的な刺激の演出を強化しようとは思いません。あくまで地域の状況のなかでの判断が重要。周辺ホテルと同じホテルをつくっても集客力とはならないわけですから。同時に、4号営業であっても客室すべてをラブニーズ重視の方向にはしない。ユーザーの嗜好は多様です。
客室ごとに異なる空間バリエーションが必要であり、総合的な「楽しさ」の演出のなかに、性的な刺激のあるエッセンスが見え隠れすることが、ラブホテルの優位点だと思います。
佐々木 客室ごとに異なるデザインという多様性の提供は重要ですね。そして、もう1つ。4号営業では、プライベート性を確保した営業ができることも大きなメリットです。地域によっては人目に付きたくないという根強いニーズがあります。これを活かすために理想を言えば、敷地入口から駐車場、エントランス、通路と、客室に至る動線をシーンごとに、プライバシーを確保しながら客室への期待が高まるようなデザインをしていきたいですね。
山口 しかし残念ながら、現在はそこまでの予算がないケースがほとんど。そこで、通過するだけの廊下は、クロスと照明だけで雰囲気を創り出しコストを抑え、立ち止まる場所やエレベーター周囲などは、イメージを印象づけるデザインを施す。そういったやり方が現実的ですね。
佐々木 コスト配分が重要ですね。

入念なマーケティングと変化への対応が重要

――客室の内装をデザインするうえで、重視していることは。
佐々木 近年は、コストを抑えるために既存の造作や素材をできるだけ活かしたいという制約が多いのですが、そのなかで、できるだけ安心や温もりを感じていただける雰囲気を醸し出したい。自宅の生活空間にはない雰囲気だけど、温もりがある。そういった空間です。そのためには、色と照明で五感に訴えることが有効的ですね。とくに、日本人は色を使うのが苦手な人種です。多彩な色を使って最終的には調和が取れている空間は、新鮮さを感じさせ訴求力が高いといえます。
――女性から見た、女性に好まれるデザインとは。
佐々木 言葉で表現するのは難しいのですが、たとえば、プリンセスをテーマにしたデザインなら、少女らしさがありながら幼稚にならない、年齢に関係なく贅沢な気分で過ごせる空間、といったニュアンス。ローコストで対応するには、ベッドの天蓋やファブリック、インテリアなどのコーディネートですね。ショーウインドのディスプレイなども経験してきましたが、そういった小技を有効に活用しています。

――その他、改装時の重視点は。
山口 マーケティングです。私は、設計着手の前に近隣の競合店を実際に利用して、サービス内容やアメニティ、スタッフの対応まで細かく観察し分析します。それをもとに経営者とグランドデザインの検討に入る。徹底した事前調査と入念な分析、これが投資の優先順位の決定根拠になりますから、設計デザイン業務の基本中の基本だと思っています。 
 同時に、現場で施工する現場監督や職人さん、運営スタッフとのリレーションも重視しています。ステークホルダー、つまり関わる人たち全員が「いいホテルにしたい!」という意識があると、やはり結果が違う。ユーザーの満足度にも確実に影響を与えます。
佐々木 それは、従業員にも当てはまりますね。繁盛店は、従業員の雰囲気が違います。
山口 空気を淀ませず、常に動いていないといけない。以前は10年ひと昔、もしくは5年ひと昔でしたが、現在は3年で大昔です。市場は生き物であり、刻一刻と変化している。いま、この瞬間にどう動くか? 敏感にアンテナを張って情報を得て常に動いていく。それが現在の最重要経営課題ですね。
佐々木 とくに女性は、食べ物や美容に関する流行に敏感です。いま、カタツムリパックが注目されているけど、次は何か。常に流行の変化を捉え、サービスに取り入れていけば、お客様の満足度は高まるはず。料金と満足度の関係は、“お得感”です。流行を捉えたサービスは、お得感につながるし、その印象は強く残ります。
 また改装時に、私は、建物だけでなくホテルのロゴの見直しも重視しています。お客様が受ける印象を大きく左右する要素ですからね。
山口 同感です。私もホテルのロゴやインフォメーションブック、メンバーカードのデザインに至るまで、目に見えるところ、手に触れるところ全てを提案します。CI(コーポレートアイデンティティ)、VI(ヴィジュアルアイデンティ)、BI(ブランドアイデンテティ)の構築です。これも非常に重要で、かつユーザーの琴線に触れる仕掛けが可能な要素だと思っています。

艶のある空間、自分が綺麗に見える空間

――今後、4号営業らしさを出すためには、どのようなデザインが求められるとお考えですか。
山口 4号営業だからできる性的な刺激の演出は、条例で規制されていない地域であれば、もちろん取り入れていきます。ただし前述したように、周辺ホテルがすべて4号営業でラブニーズの演出が強化されているような状況なら、まったく別の切り口でデザインすることが必要でしょう。
 また、4号営業だからといって、部屋の真ん中にSM器具を置くといった露骨なことはしたくない。一般の女性ユーザーは嫌がるでしょう。それらはデザインの中に隠し同化させる。一般ユーザーは支障なく素敵な空間として使え、興味のある人はそれらを使える、そのような空間デザインですね。
 そして冒頭でもっと楽しさが必要と述べましたが、それに“艶っぽさ”を加味することも大切だと考えています。男女、年齢を問わず、ラブホテル利用時には、みんな艶っぽくなりたいはずです。例えば、シーン調光で、真っ白な空間が、レッドやパープルに変化したり、ベッドの天蓋の白い布が真っ赤に光ったり。そんな演出も有効です。

――女性の視点から、性的な刺激の演出というと。
佐々木 確かに、4号営業の改装では、鏡やSM器具を設置してほしいという要望も少なくありません。ニーズはあると思いますが、やはり、あまりに露骨だと引いてしまう女性が多いと思います。私の場合も、できるだけ自然にインテリアのなかに溶け込ませるようなデザインを心がけています。
 でも、それよりも、女性にとっては、“そこに居ると自分が綺麗に見える”ような空間、“いつもの自分ではないような艶っぽさ”を感じる空間、そういった雰囲気づくりを目指したいと思っています。
山口 男性ならカッコよく見られたいし、女性なら綺麗に見られたいですよね。4号営業に限らず新法でも同様ですが、艶っぽさがあって、エロチックなエッセンスがあって、カップルの愛が深まるような空間が絶対に必要です。それがラブホテルの顧客を創造していくことになると思います。また「可愛い」要素も、「癒し」要素も必要。最終的に多様な要素のデザインで空間を構成することが、ユーザーを飽きさせない。集客力の継続につながります。
佐々木 いろいろなタイプの客室を利用したいという人もいますが、好みの客室を見つけてそこだけ利用するという人が意外に多い。他に空室があっても、好みの客室が空くのを待つというケースも少なくありませんね。
山口 昨年の東日本大震災以降、日本人の価値観は大きく変化しました。その観点から、今後のホテルづくりにおいては、コストコンシャス(過分なものを排除して必要最低限のコスト)、サスティナブル(基本性能が長持ちし修繕が簡単)、エコロジー(人や環境にやさしい)の3要素が、これまで以上に求められると考えています。これは4号営業も新法も同様です。そのうえで次の改装時期までロングランでユーザーにとってのバリュー、経営者にとっての収支を下支えできる設計デザインがより求められます。まずはユーザーの満足度を高め、結果として経営的な数字も高まる。ユーザー志向のなかで収益を確保できる、中長期的なホテルのグランドデザインを描きたいと思っています。とにかく、経営者も設計デザイナーもユーザーも思いは一緒ですが、楽しく利用でき、笑顔でチェックアウトできる、そんなホテル空間をつくっていきたいですね。

山口好孝氏の4号営業ホテル:デザインイメージの提案(PDF)
佐々木智美氏の4号営業ホテル:改装計画の進め方(PDF)

PROFILE

山口好孝(やまぐち・よしたか) ㈲デザインスタジオハーフムーン代表取締役 
1967年、東京生まれ。
23年前にホテル中心の設計事務所に入社し2000年に同社を設立
佐々木智美(ささき・ともみ) ㈲デコラボ代表 東京生まれ。
美術造形会社を経て1997年に同社設立、
8年前からラブホテルのデザインも手掛ける
掲載 LH-NEXT vol.11(2012年1月31日発刊)