NEXTインタビュー8~女性経営者に聞く「ホテルづくりの現状と今後」

  神奈川・新横浜に2008年12月にリニューアルオープンした「HOTEL The SCENE(ホテル ザ シーン)」(10階建・45室)は、5人の設計デザイナーの競作でフロアごとに異なるデザインで構成されたホテルだ。改装時からホテル事業に参入した横田咲氏は現在29歳。若い女性の感性でどのようなレジャーホテルづくりを目指しているのか、伺った。

お客様の視点で従来にないホテルを

――貴社のホテル事業の経緯からお聞かせください。
横田 名古屋で事業を営んでいる父が、10年ほど前に縁あってこのホテルを購入。ただ、父はホテル事業は初めてで名古屋での事業も忙しく、購入前のスタッフに任せる形で営業を続けてきました。しかし、老朽化が進んで全面改装が必要となり、大きな投資もかかりますから、本腰を入れて取り組もうということになり、私が任されることになったのです。

――ホテル事業に関わる前は。
横田 名古屋の大学を卒業後、地元の一般企業に就職、その後TV局の制作会社で働いていました。TVの制作の仕事は面白く、ずっと続けたいと思っていたのですが……。他に任せられる人がいなくて、私がやるしかない、と。

――5人の設計デザイナーの競作という改装の仕方でしたが、その意図は。
横田 私も父も、せっかく全面改装するなら他にはないホテルにしたい、という考えでした。そこで、飲食店舗や商業施設には実績があるがレジャーホテルは未経験という5人のデザイナーに依頼することにしたのです。父からは「任せるから、自分がやりたいことを提案しなさい」と。それをベースに、どのような内容にするか、デザイナーと詰めていきました。

――具体的には、どのようなホテルにしたいと思ったのですか。
横田 レジャーホテルの利用経験のなかで感じていたのが、ベッドや浴槽が小さいホテルが結構多いということ。大きなソファや歩き回れるスペースを設けるならベッドと浴槽をもっと大きくしてほしい、それが“お客様”としての私の実感でした。ですから、まずはベッドと浴槽は大きくしたいと、ベッドは全室2,100㎜タイプ、浴槽は500~750ℓタイプを導入しました。
 一方、シティホテルは、アメニティの質などは高いのですが、面白みがないんですよね。女の子が「可愛い! 持って帰りたい!」と思うものがない。そこで、このホテルではアメニティ類一式を可愛らしくラッピングすることにしました。リボンを開けるときに、女の子はちょっと楽しい気持ちになりますよね。

――レジャーホテルを経営するということに対しての抵抗感は。
横田 レジャーホテル/ラブホテルという業種に対しての抵抗感はまったくありませんでした。ただ、当初は、社長と呼ばれることに対しての抵抗感が大きかったですね。まだ25歳で、ホテルも経営もまったくの素人、スタッフも1人を除いてみんな年上……。それで経営者として臨まなければならないわけですから。

――スタッフは。
横田 改装前からの女性スタッフ1人に支配人として残ってもらい、あとは新規採用しました。オープン時にはコンサル会社に一部サポートしてもらいましたが、基本は、当初から私とスタッフたちで運営に臨んできました。
 当初はマニュアルもなく、新しい設備機器にも不慣れ……。営業しながら全員で運営の仕方を学んでいったという感じです。設備機器のトラブルをはじめ、日々、何かしら予想外の出来事が発生して、そのたびに関連業者に電話をして対処方法を聞いて……。最初の1年間は、なかなかプライベートな時間も取れませんでしたが、自分たちで運営方法をつくりあげていくというのは、大変さよりも面白さのほうが大きかったですね。

新しいカテゴリーの宿泊施設を目指したい

――売上げの状況はいかがですか。
横田 リーマンショック直後のオープンでしたが、売上げは順調に伸びていきました。しかし、昨年の東日本大震災以降、売上げが低下。とくに、それまで好調だった宿泊の減少が顕著です。しかし、値下げをして組数を伸ばそうとは思いません。客単価は8,500円前後で推移していますが、これを維持しながらサービスを強化して価値を高めていくことで、組数の回復・増加を図っていきたいと考えています
 ただ、より利用しやすいように料金体系の見直しは必要だと思います。12タイプの料金設定なのですが、中間層に常に空いていて稼動しない客室が生じてしまっていた。そこで中間層を振分け直したところ、低稼動だった客室が利用されるようになりました。料金設定の重要性を再確認しましたね。

――通常の利用のほかに、シングルユースや女子会プランなどにも取り組んでいますが、いかがですか。
横田 新横浜エリアは企業も多く出張の会社員も多い。とくに30歳前後の会社員はビジネスホテルとほぼ同料金で圧倒的に快適に宿泊できることを知っていて、さらにレジャーホテルにも抵抗感がない。こういった層を中心に1か月当たり10~15人の利用があります。
 また、女子会プランもすでに数組の利用があります。5時間で飲食がついて1人2,500円。カラオケやファミレスより楽しめるはずですから、今後、もっとアピールしていきます。
 カップルにとっては快適で楽しい時間を過ごせ、シングルユースも使いやすく、パーティ利用も手軽にできる……そういった、従来型のラブホテルではなくシティ・ビジネスでもない、新しいカテゴリーの宿泊施設にしていきたいと思っています。

――カップル客に対してはどのような客室が必要だとお考えですか。
横田 相手がいつもとは違って見える空間ですね。女性はいつもよりもキレイになり、男性はカッコよくなる。そして女性はより優しく可愛らしくなって、男性はいい笑顔になる。そんな気持ちになれる客室を目指しています。
 例えば、ガウンがチープでダサかったりすると、それだけで女の子は悲しくなってしまいます。わざわざお金を払って利用してただいて、そんな気持ちにしてはいけませんから、コストはかかりましたが、オリジナルデザインのガウンを制作して備えました。こういった細部への気配りが大切だと思っています。

――ホテル経営に臨まれて4年目。ホテル事業をどのようにみていますか。
横田 正直なところ、もっと儲かる商売だと思っていました。実際には、経費はかかるし、大きな初期投資の回収は長期間に及ぶし……。真剣に取り組まなければ収益を出すのが難しい商売だと実感しています。
 でも、お客様に喜んでもらおうと新しいサービスを考えて実施すると2か月くらいで数字に現れてくるわけです。これは魅力的ですね。ただ、そういった企画やサービスは私1人で考えていたのでは限界があります。現在では、スタッフ全員で考えて取り組むようになりました。スタッフと一緒に食事やお酒を飲みに行くことも多いのですが、そういう場でも「このメニューいいね。うちでもやろうか」「このサービス、うちでもできるんじゃない」、そんな会話をいつもしています。スタッフの意見を取り入れていくことで働く意欲も高まりますし、「みんなで楽しく働こう」というのが私の基本の考え方です。

――最後に、今後の抱負を
横田 スタッフとの信頼関係ができて、私が不在でも支障なく運営できるようになってきたので、1か月に10日程度を使って名古屋の父の会社で経理の勉強をはじめました。将来、結婚や出産をしてもホテル事業は続けたいと思っていますから、そのためにも経理を学んでおかなければならないと思っています。そして、今年は、震災の影響で落ちた売上げを回復させて、将来的にはさらに店舗数を増やしていきたいですね。
――既成概念に捉われない新しいカテゴリーのホテルづくりを期待します。

PROFILE

横田 咲
(よこた・さき)
名古屋の大学を卒業後、一般企業、TV局制作会社を経て、2008年からホテル事業に取り組む。女性視点、お客様視点で、宿泊施設の新しいカテゴリー確立を目指す。

掲載 LH-NEXT vol.12(2012年4月30日発刊)