【業態変革】インバウンドホテルへ

今、なぜ「脱ラブホテル」なのか 総合プロデューサー・吉田健氏に問う!

今、なぜ「インバウンドホテル」か

青木 「レジャー・ラブホテル」を、いわば「インバウンドホテル」に業態変革するとのこと、その目的・実態を、お聞かせください。
吉田 そうですね。「レジャー・ラブホテル」業界は、これまでも大きく変化してきました。それは、利用者によって、あるいは行政の力によって、ということもあるでしょう。しかし、今回、変更を余儀なくされている背景は、「社会環境」がまるで変わった、ということです。
青木 具体的には……。
吉田 ひとつには、売上・組数からも判断できるように、かつて、多くの「レジャー・ラブホテル」の売上は、都心・郊外を問わず、1ルーム・1か月、70万〜80万円が一般的でした。今日、関東の郊外のホテルの多くは、20万〜30万円です。もちろん、それ以上のホテルもありますが、50万円を超えるのは、大変な努力が必要。その売上の要因が、組数です。休憩3回転・宿泊2回転というのは、遠い昔の話で、今はどうですか。
青木 休憩・宿泊、合わせて2〜3回転前後でしょうね。
吉田 そうです。売上も半分以下なら、組数も半分以下になっているわけです。この組数の減少は、現在の「社会環境」(経済・風俗・価値観等々)のなかで、「レジャー・ラブホテル」が今後、求められる環境に向かっていくと思いますか?
青木 なかなか難しい問題ですね。
吉田 業界が隆盛を極めたのは、1980年代です。1985年に「新風営法」が施行され、行政の中に初めて、“ラブホテル”という名称が生まれました。経済は“バブル”に突入し、テレビを始めとした多くのメディアは、いわゆる“エロ”の世界に入っていくわけです。1985年の「新風営法」が施行された後も、「レジャー・ラブホテル」は、新築ブームが止まることはなかったですね。厳しい規制のなかでも、需要が勝っていたと言えます。
青木 この時代ですか。郊外の「レジャー・ラブホテル」では、空室待ちの長蛇の車の列ができたというのは……。
吉田 そうです。ある郊外のホテルでは、ルーム当たり100万円以上の売上であったわけです。1ルームで40万〜50万円の利益になっていたでしょう。
青木 20ルームのホテルならば、800万から1,000万円の利益。凄いですね……。ところが、“バブルの崩壊”がやってくる。
吉田 それが、1990年代初頭ですね。それから2011年ころまで、「デフレ時代」であり、いわれるところの「リーマンショック」等々によって、「失われた20年」となるわけです。
青木 今の、「レジャー・ラブホテル」の利用者の主役である、30、40代の多くは、バブル崩壊後に社会人になってますから、その“価値観”は全く違う。
吉田 警察庁の資料によれば、1985年には、3号(現4号)ホテルは10,817店舗ありました。新法は含まれません。この店舗数をピークに減少していくわけです。
青木 この好況感から今日の状況は、何が原因と思われますか。

市場拡大が予想される訪日外客人

吉田 ひとつには、経済問題(不況)であり、そこからでてくる“価値観”の変化ではないですか。
青木 さらに派生してくる“コスパ”ですか。
吉田 そうですね。男女の中にコストパフォーマンスを持ち込まれると、中高年にとっては理解不能の世界ですね。
青木 いわゆる“割勘”がでてきたのは、既に10年以上前になるでしょう。
吉田 その割勘から始まって、割勘さえ惜しくなって、男性が女性を、女性が男性を必要としなくなったのが、近年の状況でしょう。それが利用者の減少を生んでいるともいえるわけです。
青木 しかし、男性には“デリ”もあるわけでしょう。“コスパ”としては。
吉田 それも、NOとはいいませんが、いわゆる健全な「レジャー・ラブホテル」といえますか。2020年には、世界的なイベントが控えています。これまでの例からいえば、国際的なイベントの前には、必ず行政の指導が入るでしょう。そうなれば、“デリ”に依存しているホテルは、売上・組数は半減するでしょう。健全とはいいかねます。
青木 そこに「インバウンドホテル」構想がでてくるわけですね。
吉田 そればかりではないのですが、業界の売上・組数。かつては多くの利用者がいた。しかし、今はいない。ちょっと、例えは的確ではないかもしれませんが、魚のいない池に釣り糸を垂れても、魚は釣れないでしょう。であるならば、魚がいる池に移動するのが、釣り人です。経営者は、一方で釣り人になる必要があります。しかも、この「訪日外客」の急増で、ご存じのように、宿泊施設不足はますます蔓延しております。そこに、“民泊”なる「無法宿泊施設」が出現しょうとしています。宿泊施設の基本は、「安全」「安心」「清潔」です。そのために、「レジャー・ラブホテル」は、多くの“指導”という名の規制を受けてきたわけです。
青木 1985年のみならず、2011年には「風営法政令改正」もありました。
吉田 「レジャー・ラブホテル」は、この「安全」「安心」「清潔」では、他の宿泊施設に劣らないでしょう。なぜなら、保健所のみならず、建築指導課から消防・警察まで登場してくる。
 そこで、外客・インバウンドを対象のホテルを考えたわけです。昨年の訪日外客数をみると、1,973万人です。対前年での伸び率は、47.1%。政府の目標は2020年で2,000万人(後に4,000万人とした)でしたから、大幅に前倒しといえるわけです。その結果、東京・大阪などの大都心では、シティ・ビジネスホテルの稼働率が急上昇していることは、ご存じの通りです。さらに某大手のビジネスホテルでは、1泊3万円という、価格も話題になりました。「レジャー・ラブホテル」と比べていかがでしょうか。そのルーム面積、設備、環境……。
青木 はるかに「レジャー・ラブホテル」の方が快適ですよね。
吉田 業界の人達には理解されていても、一般の方々には、まだ、十分に理解されていない。とても残念なことです。本来ならば、“ラブ”というイメージから、“宿泊施設”の1つとして考えるべきです。快適な空間なのですから。
青木 しかし、訪日外客人の国・地域別には、まだまだ偏りもみられる。
吉田 そうです。昨年の訪日外客数、1,973万人のうち、中国(499万人)・韓国(400万人)・台湾(368万人)・香港(152万人)の東アジアで72%を占めているわけです。この偏りは、「観光立国」としては、甚だ覚束ない状況でもあると思います。というのは、観光客というのは、遠方からの客であればあるほど、滞在日数が長くなり、消費金額も多くなるからです。例えば米国は、観光客数はフランスに次いで第2位で、2014年では、7,475.7万人ですが、滞在日数は、14日以上となっております。日本の場合は、近隣国・地域が多いために、滞在日数が遥に少ない。したがって、今後の政策においては、いかに欧米人を取り込むかが、カギになるでしょう。それも、2020年の東京五輪のテーマともいえそうです。

大幅な改装は不要

青木 「インバウンドホテル」に変えることによって、どこの国・地域の旅行者をターゲットにするのですか。
吉田 無謀にこの事業計画を立てたわけではありません。それなりの裏付けがなければ、「レジャー・ラブホテル」のママで進むしかないでしょう。しかし、時代は大きく動いているわけです。「レジャー・ラブホテル」の利用者は大きく減少し、一方、インバウンド客は溢れています。さらに今後、観光立国の条件である、「気候」「自然」「文化」「食事」等を考えれば、増加することはあっても、減少することはなでしょう。ディビッド・アトキンソンの『新・観光立国論』(東洋経済新報社)によれば、日本の訪日外客数は、2030年までに8,200万人が妥当な予想ということです。これは、観光立国トップのフランス(8,300万人)に迫る勢いです。
 そこで、当事業計画は、第1ターゲットを中国に定めました。もちろん、昨年からの中国の危うい経済事情を承知してのことです。中国は、2012年の調査によれば、人口は13億4,133万人です。さらに、長く続いた「一人っ子政策」によって、無国籍の、いわゆる“黒子”といわれる人達が、1億人近くいるといわれています。つまり、14億人以上の人口となります。2013の中国のデータをみると、中国からの出国者は、9,818万5,200人です。約1億人弱。このうち訪日旅行者は、240万9,158人(2014年)でしかありません。しかし、2015年の観光統計をみると、宿泊総数(外来客の)6,118万人のうち中国人は1,646万人で、全体の26.9%を占めています。宿泊施設不足は、納得できる数字といえるでしょう。そこで、「レジャー・ラブホテル」から「インバウンドホテル」に移行するにあたり、中国の旅行会社と契約。浦和(埼玉)と沼津(静岡)の2カ所で同時進行しています。オープンは5月にはしたいと思っています。
青木 改装のポイントは……。
吉田 極論してしまえば、ダブルベッドを撤去し、シングルを2〜3台入れる。他は、新たに入れるのではなく、むしろ撤去する備品・用品の方が多い。表層については、そのママです。
青木 ということは、改装費用は、多くはない。
吉田 そうです。むしろ撤去後の処分の方が掛りますね。
青木 その他、注意すべきことは……。
吉田 やはり、文化・習慣・宗教等が異なりますからね。それぞれに応じて、契約先の旅行会社の担当者と詰めているところです。ただ、システムを説明できる案内書があれば、それほど難しい問題ではないでしょう。
青木 「レジャー・ラブホテル」を「インバウンドホテル」に変えるメリットは、何ですか。
吉田 もっとも大きいのは、売上の確保であり、より多くの利益を得ることでしょう。そして、中国のみならず、やがては世界からの訪日客に対応することです。実は、この方針を現場の従業員・スタッフに報告したところ、彼らは非常に喜んでいました。
青木 その点につきましても、今後ともハード・ソフト・サービス、あらゆる部分において、インバウンドホテルの動向を追いかけていきたいと思いますので、よろしく、お願いいたします。なお、当雑誌のみならず、テイダンのHPでも報告していきますので、ご覧ください。
(構成/編集/インタビュー/本誌・青木由香)

吉田氏が現在手がけているインバウンドホテルはこちらから
浦和篇
沼津篇

掲載 LH-NEXT vol.28(2016年4月30日発刊)