対談:設計デザイナー&経営者/㈲エム・エム興産 代表取締役 藤田真吾・㈱ユニックス  代表取締役 近藤俊大

<繁華街ホテルの改装>
低価格店の多い地域で全面改装単価を確保し売上・収益増を実現

㈲エム・エム興産 代表取締役 藤田真吾 
㈱ユニックス   代表取締役 近藤俊大

昨年6月、大阪・日本橋でリニューアルオープンした「HOTEL FIVE」。
値下げ競争が進み低価格店の多いエリアで、改装後は適正な単価・集客で、当初計画を上回る売上・収益を実現している。経営者の㈱エム・エム興産代表取締役・藤田真吾氏と、設計デザインを担当した㈱ユニックス代表取締役・近藤俊大氏に、改装への取組み方を伺った。

脱・デフレにはクオリティアップしかない

――この数年の状況はいかがですか。
藤田 ホテル経営に携わって23年になりますが、この数年、関西の多くのホテルは、まさにデフレスパイラルに嵌り込んでしまった状況です。価格競争で客単価が低下し、組数も減少。当社は、大阪市内で5店舗を経営していますが、各店舗の売上はそれぞれ右肩下がりの状況でした。
近藤 値下げで組数を確保し利益を維持しようとしても、周辺店舗も値下げするから組数が増えない。利益が減少すれば経費を削減し、追加投資も難しくなる。その結果、ホテルのクオリティが低下して客が離れていく。不況に加えて、この状況が深刻な売上低下を招いた大きな要因だと思います。

――厳しい市況のなかで本格的な改装に踏み切られたのは。
藤田 ホテル事業の将来への継続を考えれば、適正な単価で集客し必要な収益を確保する、その方向しかないと思います。そのためには、老朽化を解消しホテルのクオリティを高める改装がやはり必要です。
近藤 大阪市内でも日本橋エリアは、デリヘル利用がかなり多い。しかし、市内の中心的繁華街の1つであり、一般カップルも数多く訪れている。潜在顧客が存在するわけですから、その層を掴めば必要な組数は確保できます。
藤田 2010年にも大阪・ミナミの「HOTEL Jay」をほぼ全面改装したのですが、厳しい環境のエリアながら、売上は改装前に比べ170%程度に回復できた。従来のような大きなコストをかけられない改装でしたが、それでもクオリティアップは売上に確実に反映することが確認できた。これも今回の改装を決断する背景にありました。

――「HOTEL FIVE」の改装では、どのような収支計画で臨んだのですか。
藤田 限られたコストのなかでどうするか、近藤先生と一緒に、改装内容と収支計画を詰めていきました。一般カップルを主要客層に想定し、適正な単価で高回転は目指さず確実な利益を得る方向で、収支計画は、改装後の月売上が25室で870万円、平均単価5,100円、営業利益率35%というものです。
近藤 経費もかなり多めに見積もり、非常に安全性の高い計画で臨みました。

――改装後の状況は。
藤田 改装後の売上は、事前計画を30%以上上回っています。

インパクトの強い外観で新規顧客を開拓

――改装の内容については。
藤田 経営側からすれば、できるだけコストを抑えて効果を出したい……。
近藤 そのためには既存部分を最大限に活用する。ただし、お客様の目に付く部分や肌が触れる部分は新しく変える。これが基本です。クロス等の表装、シャンデリア等の照明、電話機等も含めたベッドヘッド周り、浴室・洗面・トイレの水回りはまったく新しく変えました。客室を綺麗にしても、水まわりが老朽化したままでは効果は薄い。コストがかかっても水まわりの変更は必要です。

――設備面は。
藤田 VODを導入し、浴槽も2室にはインパクトのある「HOTARU」を採用。当初予定していたフロント精算機からフロントの手集金に変更し、その費用でテレビを大型化するといった取捨選択もしていきました。

――ファサードはインパクトの強い演出ですね。
藤田 メインエントランスの間口は狭いのですが幹線道路の千日前通りに面している。強いインパクトを出そうというのは当初からの考えでした。
近藤 店名をロゴマーク化して使用し、両サイドにLEDにより発色が変化する光の柱を設けた。日中はシンプルな白色ですが、夜間は発色の変化によってホテル前を通過する人や車にも印象に留まるデザインです。

――改装費用は。
藤田 外装も含め1室当たりに換算すると、当初は200万円台で抑える計画でしたが、最終的には300万円を少し超えました。既存部分をできるだけ活かすといっても、新しくすることで印象が大きく変わる部分もある。そういった部分でコストを追加しました。

――改装後の経費については。
藤田 もちろん経費はできるだけ抑えたい。しかし、必要な経費をかけなければクオリティの持続ができません。例えば人件費。最も削減したくなる部分ですが、無理に削減すれば客室のクオリティは確実に低下します。また、アメニティやリネンも重要です。アメニティは商品選択だけでなく、置き方ひとつでも印象が変わります。そういった細部の取組みも重視しています。リネンなどの肌に直接触れるモノの品質もお客様の印象を左右しますから、削減してはいけないコストだと思っています。改装後、的確な経費をかけることが、改装効果の持続にもつながると思います。

――今後の展開は。
藤田 現在、もう1店舗の改装を計画中です。ホテル事業に対しては、長期的に所有し長期にわたり利益を生み出す取組み方で臨んでいます。現在の市場環境では、改装しても10年前、20年前の売上を超えることは難しい。しかし、今後も、事業を継続するために求められる収益の確保は十分に可能な業種だと思っています。
 また、改装だけでなく、売上や集客向上のためにやるべきことはまだまだたくさんあります。従業員と一緒に、どうすればもっと集客できるか、もっと売上が伸びるか、さまざまな企画を考えてトライして、失敗してまたチャレンジして……。私自身、こういった日々の運営も含め、ホテル経営はとても楽しい仕事だと思っていますので、今後も前向きに、積極的に取り組んでいきます。
近藤 経営者が、ホテル事業を楽しいと思って取組むことは、やはり将来の発展につながっていくと思います。ただ、儲かっていないと、余裕がなくなり楽しめない。この数年のマイナスのスパイラルからプラスのスパイラルに転じるための第1歩は、儲かるホテルにするということしかないと思います。設計事務所として、店舗によってアプローチの仕方はさまざまですが、儲かるホテルをつくるという基本をさらに追求していきます。

〈掲載LH-NEXT vol.20(2014年4月30日発刊)〉