〈業界史の断面・特別編〉レジャー・ラブホテルにおける バスタブ・バスルームの歴史を語る

バスルーム・バスタブの起源を探る

湯本 今、御社の光のバスタブ、「HOTARU」が話題になっておりますが、業界のこれまでのバスタブ・バスルームの歴史を振り返ってみたいと思います。まず、武下社長が業界に参入されたのは、いつころからですか。
武下 1983年(昭和58年・以下同)頃の参入です。最初から、バスタブメーカーとして始まったわけではなく、「タケシタサービス」として、バスタブの修理・施工を目的に始めました。その後、「㈱タケシタ」となって、メーカーとなり、今日に至ります。
湯本 1983年といいますと、いわゆる「新風営法」施行の前前年。業界が新築ブームとなっていた時代、さらにいえば、もっとも隆盛を極めていた時期でもありますね。この時代のバスタブは「FRP」から、「FRA」というこ
とになると思いますが、これまでの流れは、どのようになりますか?
武下 客室に「バス・トイレ」が入ってきたのは、1964年( 同39年) 頃でしょうね。それまでは、「共同風呂」ということになります。もちろん、「モーテル」がブームになる以前のことです。都市部にある多くの、いわゆる「連込み旅館」ということになると思います。
湯本 その後、急増してくる「モーテル」では、「バス・トイレ付」なる看板・垂れ幕もでてくるわけですね。
武下 最初に出てきたのは、「タイル」の風呂でしょうね。鉄板でバスタブ状の下地を作って、防水加工を施して、そこに小さなモザイクタイルを張り付けたものです。ただ、調べてみると、「トルコ風呂(後にソープランド)」などに人気のあった「金粉風呂」を製造していた「滋賀プラスチックス(1987年廃業)」は、1964年に創業していますね。
湯本 「滋賀プラスチックス」の西四辻公敬社長とは1984年頃から、数回、お会いさせていただきました。たしか、冷泉家の末裔の方で、プラスチックス業界の役員をやられていたように記憶しております。1964年に創業ということは、その当時、FRPの製品ができつつある。ということでしょうか。
武下 流れからみれば、そういうことになると思います。1970年(同45年)には、「サラダボウル」と「人間洗濯機」(三商機器)というバスタブが登場しています。「サラダボウル」というのは、丸いバスタブで、その名の通り、透明なバスですね。タイルの風呂と違って、風呂に入っている状態が透けて外から見えるわけです。ある意味、「エロチック」であったとも、いえますね。ただし、大いに“危険”でもありました。といいますのは、床面がサラダボウルですから、平らな部分は少ないわけです。バスに入る時からして側面が歪曲しているわけですから安定度に欠ける。気を付けないと、溺れますね。「人間洗濯機」というのは、形はドラム缶の小型版。初期の洗濯機にこのようなものがありましたが、そこに人間が入れるようにしたわけですが、話題性はあっても継続的なヒット商品にはならなかったようです。
湯本 この、1970年ということは、「日本万国博覧会」が開催された年でもあったわけですね。経済が右肩上がりになっていっている。
武下 そうです。たしか、いわゆる「トルコ風呂」が1000店舗を超えたのは、1970年代初めでしょう。「ジェットバス」が登場したのが、75年(同50年)です。タイルの浴槽から、ジェットバスに移行していくわけですが、ここに輸入のバスタブが登場してくるわけです。ちなみに、日本人と欧米人の“バスタブ”について、或いは風呂・バスに入るという文化・習慣という違いも認識しておく必要もあるでしょうね。日本人は“風呂に入る”、欧米人は“シャワーを浴びる”ですよね。したがって、日本人は縦に入る。肩まで十分に浸かる状態ですから、浴槽は深さが必要になってくるわけです。一方、欧米人は水を浴びる、シャワー文化から始まっていますから、横になって入る。浴槽の深さはそれほど必要ないわけですね。
湯本 先ほど、「サラダボウルバス」あるいは「人間洗濯機」なるものがでてきましたが、その他にどのようなものが……。
武下 「サラダボウル」が出てから、10年過ぎに「シェルバス」や「アップダウンバス」が登場してきます。
湯本 10年過ぎということは、1980年(同55年)代初頭ということになりますね。1985年( 同60年) のいわゆる「新風営法」の施行に向かって、業界がもっとも活気のあった時代でもあるわけですが……。
武下 そうですね。バスタブ以外に“おもしろ商材”が次々にでてきた時代ともいえますね。「シェルバス」「アップダウンバス」がでてきたのは、1981、2年(同56・57年)頃ですね。「シェルバス」は、つい7、8年前にもありましたが、“貝の口を開いた”バスということになります。もっとも、この「シェルバス」というのは、ベッドでも同じ形のものがありましたね。各社から「シェルバス」はつくられていましたが、共通しているのは、大きすぎてバスルームの広さが必要。さらに「サラダボウル」同様、深さがなく安定性に欠けていたことでしょうね。「アップダウンバス」というのは、米国で開発された医療用のバスタブを転用したもので、バスタブの床が上下するものでしたが、油圧を利用していたので故障が多く販売会社も間のなく倒産したので弊社でよく修理させていただきました。
湯本 そういえば、アップ・ダウンする仕掛けには、ベッドも同様にありましたね。
武下 その他に、都市部のホテルで設置されたバスルームに「岩風呂」がありますね。これも、「タイル風呂」同様に、下地は鉄板です。そこに、防水加工をするわけです。初期の物は、本物の石を使って積み上げて風呂にしていました。
湯本 相当な重量ですね。
武下 したがって、その後、火山岩を使用したり、さらには擬岩(プラスチック)のものも多かったですね。
湯本 しかし、「岩風呂」の場合、清掃・メンテも大変ですね。
武下 清掃のみならず、バスルームの広さもありましたよね。「シェルバス」同様の広いものをFRPのバスに入れ替えたことがあります。「岩風呂」の場合も「シェル」同様、深さはなかったですね。その後にでてきたのが、一般家庭でも使用された「ユニットバス」です。

今後のバスルーム・バスタブを考える

湯本 この10数年間、FRPあるいはFRAが主流になっておりますが、色彩的には、いかがですか。かつて、FRPのバスタブはカラフルな色をしたものが、今日ではあまり見られなくなってきている。何か理由でもありますか。
武下 FRPとFRAの大きな違いは、それぞれメリット・デメリットがありますが、Aの方が量産体制をとりやすく、製造コストを低く抑えることができるということです。もちろん、FRAは初期の真空成型機と金型費用がかかりますが、ロットでの製作費を考えれば、はるかにコストダウンできるでしょうね。さらに、“色”・カラ―の問題ですが、カラ―のバリエーションはどのような色でも可能です。ただし、材料調達のロットの問題がありますから、少量ですとコスト高になってしまうということです。
湯本 FRPもFRAもバスタブの素材としては長い歴史があるわけですが、今後、これらの素材を用いたバスタブは、どのように変化すると思われますか……。
武下 店舗等施設から住宅まで直接照明から間接照明に変化してきたように多種多様な演出効果のある素材に変化するのではないでしょうか。
湯本 そこに、今年から発売された「HOTARU」がでているわけですね。このバスの素材は、人工大理石で光の部分はLEDを使用。なぜ、人工大理石なのですか。
武下 LEDの光、これは約100個使用しておりますが、この光を浴槽内部に透過させるには人工大理石がベストの素材と考えたからです。バスタブそのものを、七色に変色させるわけです。
湯本 しかし、この「HOTARU」の場合、あまりにも形状が画一的ではありませんか。
武下 いゃ、今後、形の違う物、大きさの違うバスタブを次々に発表していく予定です。「HOTARU」は、バスタブ自体が発光及び変色していきますので、現在導入されたお客様の施設ではホワイトの鏡面タイルを採用されております。それによりタイルにも光が反射して浴室全体がムードのある演出が実現できます。
 コスト的にはFRAより多少上がってしまいますが、無地タイルを採用することにより全体予算は今までと変化なく仕上がっているようです。
 次期商品はユニットバス対応商品の開発にも着手しており、7月末頃には完成します。「バスタブ・バスルーム」の歴史をみれば、その時代ごとに変化してきた。さらには、変化を要求されてきたわけです。FRP・FRAにとどまることなく、業界のもう一つの空間として、提案できればと考えております。
湯本 業界の、ある種の閉塞感を「バスルーム」という空間から、新基軸を打出していただければ、幸いです。

PROFILE

㈱タケシタ 代表取締役
 武下 充宏
(たけした・みつひろ)
1963 年生まれ。1983 年に業界参入、バスタブの修理・施行のサービス業からメーカーとなって現在に至る。
掲載 LH-NEXT vol.17(2013年7月31日発刊)