[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点>・・・客室空間の再検討

 市場縮小の経営環境下において、集客力を回復させ利益が確保できるリニューアル(=新しい魅力の創出)とは何か。デザインと運営の視点から探る第3回目の対談。今回は、客室空間について検討していただいた。

老朽化、陳腐化の要因とは

――客室において、とくにお客様の印象を左右する要素は何でしょうか。
関口 部分的な問題ではなく、客室全体の統一感や雰囲気が、要は“いまどき”なのかどうかだと思います。
 壁のクロスは貼り替えたが、部分的に20年前の石材が残っている。当時、こだわってお金をかけたいいものだから残したい、と。その結果、古臭いイメージが払拭できない。そういったケースも少なくありません。色使いやデザインは、年数の経過とともにどうしても陳腐化していきます。石材などは、耐久性や高級感の面からみれば有効な素材ですが、客室は商品であり、時代に合った雰囲気が必要ということを考えると、長期間、変更しにくい素材は、使い方を十分に検討する必要があると思います。
嶋野 改装資金の調達がむずかしく、老朽化、陳腐化の対策をどうすればよいか悩んでいるホテルも少なくありません。でも、本当は、老朽化や陳腐化を論じること自体がおかしいと思うのです。客室は商品です。お客様の視点で言えば、老朽化したもの、陳腐化したものは買いませんよね。もちろん、短期のサイクルで多額の投資を伴う改装を繰り返すことはできません。低コストでいいから2、3年に1度のリフレッシュを続ける。これが、やはり集客力の維持には必要です。
関口 ある程度のデザインセンスがあれば、プロでなくても部分的なリフレッシュはできるでしょう。その際に注意すべきことが、全体のなかの部分ということ。一部分だけを見て色やデザインを変更すると、客室全体が違和感のある空間になってしまいます。
嶋野 どこをどのようにリフレッシュするか、経営者が自ら判断するよりも、プロのデザイナーにチェックしてもらって取り組むほうが確実ですね。
 ただ、時代遅れの印象を与えてしまうのは、内装や設備だけではありません。何年も前につくったインフォメーションやメニュー、メンバー特典の景品を、当時のまま使い続けているホテルもある。そういった、いわば客室の付帯品の内容も、お客様に古臭さを感じさせてしまう要素です。もっと真剣に丁寧に、客室を見ることが必要でしょう。そうすれば、小さな汚れや傷も目立つ前に対処できるはずです。
関口 ホテルを収益装置としてだけみるのではなく、やはり愛情をもって見ることが必要ですね。

――とくに、女性に好印象を与えるためには……。
嶋野 女性に「どのようなホテルが好きか」と聞くと、ほとんどが「綺麗なホテル」という回答です。でも、その綺麗という基準は何なのか。清掃が行き届いている、汚れや破損がない。これは当然です。ほかにも、客室の広さやデザインも関係しています。客室に入ったときの「うわぁ、素敵!」という驚き。これが綺麗さを印象づけるうえでやはり重要です。
関口 いま、4号ホテルにいかに4号らしい空間演出を施すか、重要なカギといえますが、女性視点で考えると、やはり、第一印象は、綺麗というイメージが重要です。そのなかに、さりげなくエロさがある。そんな空間演出をしていきたいですね。
嶋野 「え~、何これ、面白い!」と女性が感じるような新しいエロさの演出をつくりだすことも必要でしょう。やはり、常に新しい魅力を考え出して提供し続けないと、レジャー・ラブホテルという業態自体の存続が危うくなりかねません。

――女性に対しては清潔感のアピールも重要……。
関口 デザインや素材を検討する前に、まず、ポットや茶器の置き場所なども見直したい。キャビネット上に置くと、片づけのできていない家庭のようなもので、乱雑で汚い印象につながります。やはりきちんと収納すべきです。
嶋野 洗面も同様ですね。各種アメニティをすべて並べて置く。数の豊富さを見せたいとの考え方もあるでしょうが、私は、収納してスッキリさせたほうが、見栄えがよく清潔なイメージになると思います。

“五感”で不備をチェック

――運営から見た改装の重視点とは。
嶋野 汚れにくい素材を使うといったことは、設計デザイナーの方々がみな考慮されています。ですから、改装後の運営の依頼なら、どんな改装でもありがたい。でも現実は、いくら清掃しても臭いがとれない客室で、改装できないから運営でなんとかできないかといった相談も多い。最大限の努力はしますが、正直なところ難しい……。
関口 臭いは、どうしてもクロスやカーペットなどの仕上げ材に染み込んでしまいます。建築的な問題なのですが、換気口はあっても吸気口のない客室が、結構あるのです。改装を重ねるうちに、吸気ダクトはあるのに塞がれてしまったというケースも。いくら換気扇を回しても吸気がなければ空気は入れ換わらないから、臭いが付きやすくなってしまう。また、エアコンが臭うと大きなマイナスイメージですね。
嶋野 エアコンのフィルター掃除は重要です。夏、冬の高稼動期は週1回、それ以外は2週に1回のペースを基本にしています。客室の印象というのは、視覚だけではありません。嗅覚、聴覚、味覚、触覚も含めて、五感で総合的に感じるものです。たとえば聴覚なら、BGMにヒーリングミュージックなどを使えば現代的なイメージにつながりますね。ボーカル付きの音楽は避けたほうがよいと思っています。音楽でも人の声が聞こえると、お客様は不安を感じます。
関口 トイレに有線放送を付けることも有効です。何の演出もないトイレは、一般家庭と同じ。でも、音楽があって間接照明があると、店舗の空間になります。

――ベッドや寝具については。
関口 シティホテルや一部のビジネスホテルでは、海外製の高級マットで快眠をアピールしているところもあります。実際に利用してみると、明らかに寝心地が違います。でも、レジャーホテルでは、どうしても耐久性を重視して堅いマットを選びがち。やはり、客層を考えて選択すべきですね。デリヘル利用が多く高回転なら、耐久性を優先。特室等で快適性をアピールするなら、高品質マットは有効でしょう。
嶋野 限られた予算の配分を考えると、ベッドマットよりもソファ・テーブルを優先させたい。客室に入った瞬間の第一印象に、ソファ・テーブルは大きく影響します。
関口 飲食重視のホテルなら、カップルが横並びで食事ができる大きさのソファ・テーブルを備えたいですね。
嶋野 お客様にどのように使ってもらうのかを考えないと。使い勝手の善し悪しも、客室の印象につながります。
関口 寝具やリネンは、直接、身体に触れるだけに、印象に残ります。同時に、視覚面でも客室全体の印象に関わる。改装時には、タオルやガウンのデザインやロゴをどうするかということも、重視する要素のひとつです。
嶋野 近年、どうしてもコスト優先になってしまう傾向が強い。リネンなどは本来もっとこだわるべきですね。確かに、ショートタイムの利用を考えれば、バスローブを置いても、着用するのは一瞬しかないということもあるのですが……。
関口 やはりこれも客単価と客層によって選択すべきです。ただ、せっかく高品質のバスローブなどを採用したなら、畳んでベッドの上やカゴの中に置くよりも、ハンガーで吊るしたほうが“今風”ですね。

――浴室については。
関口 広いスペースが確保できるのであれば、客室のようにしたいと思っています。ソファ代わりにもなるようなマットを置いて、テーブルも置いて、ドリンクを飲みながらテレビも見れて、くつろげるスペース……。客室と同じウエイトで考えたい。
嶋野 浴室空間にコストをかけることができれば、非常に魅力的なホテルになると思います。客単価も取れるし、宣伝広告の謳い文句にもできます。
関口 客室内は必要最低限のコストで抑え、浴室にできるだけコストをかける。そういった予算配分の考え方も必要ではないかと思います。
嶋野 現在、お客様に選ばれるホテルと客離れの進むホテルが明確に分かれてきています。今後、景気回復が進んでも、この格差は縮まらず、さらに開くのではないでしょうか。いま客離れの進んでいるホテルは、緊急事態という認識でホテルを見直し、早急な対策が求められると思います。に新しい提案をぶつけあうなかから生まれると思います。

<季刊『LH-NEXT』vol.16掲載>

PROFILE

㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に15店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴20年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.16(2013年4月30日発刊)