ラブホテル、 魅力の原点 /映画監督・テレビディレクター 村上賢司

 今年2月、写真集『ラブホテル・コレクション』が発刊された。著者の村上賢司氏は映画監督・テレビディレクターであり、2009年にはドキュメンタリー映画『ラブホテル・コレクション 甘い記憶』を製作・公開している。
 ともに、1985年の新風営法以前につくられた魅惑的なラブホテルの客室を取り上げた作品だ。これらのラブホテル客室を「極上のアート作品」「日本が誇る文化」と評する村上監督に、ラブホテルの魅力の原点を聞いた

ドキドキわくわくに邁進したアートの世界
――村上監督が、そもそもラブホテルに対して興味を抱いたのは……。
村上 私は1970年生まれ、子供の頃はテレビっ子です。「11PM」や「トゥナイト」「土曜ワイド劇場」といった大人向けの番組も、興味津津こっそりと見ていました。そこに登場するラブホテルは、遊園地のようで、ピンク色で、キラキラして、円形ベッドが回っていて……、見ているだけでドキドキして、「実際にはどんなところなんだろう」と、想像力が刺激されましたね。
 ラブホテルという大人しか行けない空間をテレビ画面で見るたびに、「自分も大人になったら、あそこに行けるんだ」と思っていた。しかし、実際に大人になってラブホテルに行けるようになると、すでに90年代、当時のような魅惑的な客室はほとんどなくなっていた……。本当に悔しかったですよ。
 そんななか、美術・建築の分野で編集や執筆をされていた都築響一さんが『Satellite of LOVE:ラブホテル・消えゆく愛の空間学』という写真集を出版された(2001年、アスペクト刊/2008年に版型を変えて再刊行)。それを見て、「あっ、まだ残っているんだ」と。そこで2009年、現存する魅惑的なラブホテルの客室を映像で残しておかなければならないと思って、ドキュメンタリー映画『ラブホテル・コレクション 甘い記憶』(ポニーキャニオン/DVDでも発売)を製作したのです。
 このときは、関東の8ホテルと関西の5ホテルを撮影したのですが、その後、全国にもっとあるはずだと探して、今回の写真集では、東北や北陸、九州と地域を広げ、33軒のホテルを取材、紹介することができました。

――ほとんどが、1985年の新風営法以前につくられたラブホテルですが、その魅力とは。
村上 僕の創作活動の根底にあるのは「人生って面白いよね」「この世界って面白いよね」ということを伝えたい、そういう単純な気持ちなんです。新風営法前のラブホテルを対象に選んだのも、この気持ちから。過剰なまでのエンターテイメントに溢れていて非日常的で、そこに居るだけで、本末転倒かもしれませんが、セックスを忘れてしまうくらいの快感を覚える空間です。
 それに、作った人の気持ちがすごく伝わってくる。お客様を喜ばせたい、驚かせたい、そういった気持ちの塊のような世界です。コンセプトがどうのこうのという前に、純粋に面白い。これには惹かれますね。人というのはそもそも矛盾していて猥雑でエロチックな存在で……、そういった人の根源部分を刺激してドキドキわくわくさせることに邁進していったアートだと思うのです。いまの元気のない日本の文化を揺らすだけのパワーがある存在だと思います。
 とくに、亜美伊新先生は、日本が誇れるアーティストですよ。一方、地方には名もない工務店の人たちが一生懸命つくりあげた客室もある。これもいじらしさに溢れていて、その場にいると嬉しくなってきます。

現代の若者に体感してほしい
――映画上映や出版後の反応は。
村上 映画の観客は10代、20代の若者が多かったのですが、みんな「何これ! すごい!」って驚いていました。すでにこの世代は、このようなラブホテルの客室を知らないんです。
 だから、とくに若者たちには、映画や本を通してだけでなく、ぜひ足を運んで、自分の目で見て体感してほしい。いまの若者はネットで情報を得て、知ったつもりになっている。それではものごとはわからない。こういったラブホテルを知らないのは、一度きりの人生、本当にもったいないと思います。

――撮影や取材で多くの経営者や支配人の方々とお会いしたと思いますが。
村上 みなさん、経営者として、まじめで一生懸命。僕はデザインの話を聞きたいのに熱く経営の話をされることも……。でも、僕が一番驚いたのは、自分のホテルを“魅力的な財産”と思っている方がほとんどいなかったことです。「こんな古い客室がそんなに面白いのですか? 珍しいのですか?」と反対に聞かれた。
 また、凝ったデザインや設備に溢れた客室というのは、維持管理がたいへんです。だから、従業員さんたちが一生懸命、掃除をしてメンテナンスをしていた。それだけに、年数は経っていても新しいサービスはなくても、居心地の良い客室でしたね。
 確かに、現在の主流となっているシンプルな客室のほうが清掃もメンテナンスも楽で経費もかからないでしょう。さらに老朽化や耐震の問題など、維持していくのはたいへんだと思います。でも、日本の大切な文化財です。若い世代に知ってもらうためにも、頑張って残していってほしい。今回、取材したホテルのなかには、凝ったデザインの客室を活かして、コスプレの撮影を受け入れるなど、新しい顧客開拓に取り組んでいるホテルもありました。

――現在のラブホテルについては、いかがですか。
村上 現在のラブホテルは、ラグジュアリーや癒しの方向に進んでいて、確かに快適に過ごせる空間だとは思います。実際に、シティホテルやビジネスホテルよりも、安く快適に楽しく利用できることは間違いない。でも、空間として見ると、やはりそこには、ドキドキわくわくがない……。僕は、商売は素人ですが、人を集める商売というのは、やはりその場所が面白いからこそ人が集まってくると思います。日本を訪れる外国人などは、いまのラブホテルやシティホテルの客室よりも、新風営法前の凝った客室のほうに、絶対に魅力を感じると思います。
 こういったラブホテルが失われてきた背景には、風営法の規制も大きいと思います。話は逸れますが、僕は、風営法というのは、とんでもない悪法だと思っています。セックスは人のまっとうな営みであり、人は雑多で猥雑な存在であり、そういったなかから文化が生まれ根付いていく。それを法律で規制して排除していくというのはおかしいですよ。

――現代の若者はセックスレス化が進んでいるともいわれますが……。
村上 今回の取材で、多くの経営者から、お客様が減っているという話を伺いました。その要因として少子化や飲酒運転の規制強化とともに、若者のセックスレス化も指摘されていた。
 僕は以前、秘宝館のドキュメンタリーも製作したことがあるのですが、秘宝館も民俗学的に非常に貴重な資料であり、日本の大切な文化です。そこで感じたことは、本来、日本人は性に対してとてもおおらかで、それが素晴らしい文化につながってきたということ。それが脈々と受け継がれてきて、ラブホテルの文化にもつながっている。
 それだけに、とにかく、いまの若者たちには、こういった魅惑的な客室のラブホテルを実際に見て体感して、その魅力がわかる大人に育ってほしいと思っています。

PROFILE

村上賢司
(むらかみ・けんじ)
1970年、群馬・高崎生まれ。
1988年に『夏に生れる』で、ゆうばり国際ファンタステック映画祭グランプリ受賞。以降、映画では『細菌列島』『ゾンビデオ』などを監督。テレビでは『怪奇大家族』『ケータイ刑事』などを演出。ドキュメンタリーにも精力的に取り組み『伊勢エロスの館 元祖国際秘宝館』『ラブホテル・コレクション 甘い記憶』などを製作
掲載 LH-NEXT vol.16(2013年4月30日発刊)