[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点>・・・現状の問題点と対応策

 市場縮小の厳しい経営環境下で、生き残るためには、どのようなホテルづくりが求められるのか。集客力を回復させ、利益が確保できるリニューアル(=新しい魅力の創出)とは何か。デザインと運営の視点から、㈱Hale Design代表取締役・関口達也氏と㈱トラスター代表取締役・嶋野宏見氏に、数回にわたり対談していただく。

ハードとサービスの相乗効果を

――現在の市場をどのように捉えていますか。
嶋野 少子化、セックスレス、不況……、市場全体は、やはり縮小していると思います。東日本の場合、昨年は大震災の影響が大きく、今年は売上が前年比プラスのホテルも増えていますが、前々年比となるとまだ下回っているホテルが少なくないと思います。
 とくに地方では利用者減少が著しい。さらに、この数年で、地域の市場特性が大きく変わってしまったエリアも多い。好立地エリアの変化ですね。市場特性を再確認して変化を把握することがまず必要です。
 ただ、厳しい環境下でも何とかしようと改装したり新しいサービスに取り組んだり、と“動いている”ホテルはやはり売上げが回復しています。しかし、まだまだ“動かない”“動けない”ホテルのほうが多い。数年間、新しいことをしなければ、ネット環境もテレビの画面サイズも一般家庭よりも劣ってしまう。集客減は外部要因だけではないといえます。
関口 今年に入って回復傾向のホテルが見られてきたとはいえ、まだまだ市場環境は厳しいといえます。改装に取り組む際には、商圏内のリサーチを行ないますが、数年前と比べ地域一番店の売上げが下がっています。つまり、その地域の売上げの上限が低下しているという状況です。
 そのため、以前のように全面改装をして地域一番店を狙うということが難しくなった。地域一番の売上げを実現できても、以前のような高い売上げに達しなければ採算が合いませんから。しかし、何もしないで老朽化、陳腐化が進めば、さらに売上低下は止まらない。最近は、改装の相談に対して、費用対効果を考え1室1か月50万円程度の地域2、3番店を目指すことを勧めるケースが多いですね。
嶋野 コストを抑えたリニューアルをしたが集客が回復しなかったというケースも少なくありません。その結果“この不況下では少々の改装では集客力は回復しない”と思ってしまう。そして“我慢して動かないほうがいい”と。しかし、改装した内容をみると、ホテル全体をトータルに見ずに経営者自身が気になるところにランダムに手を加え、結局、ちぐはぐなホテルになってしまっていることも少なくない。コストをかける部分が違うと思われるケースも多いですね。
関口 客室内の表層を変えるだけでも綺麗になり現代的なイメージになり、集客回復の効果はあります。そういったローコストのリニューアル手法は、現在の設計デザイン事務所はどこも上手いですから、活用したほうがいいですね。また、この数年、部分的な変更を重ねてきたホテルなどは、新旧取り交ぜ、デザインのイメージも統一がとれていない、そんな状況も少なくありません。やはり統一感のあるデザインの綺麗な空間は集客の基本条件です。
 そして、ローコストリニューアルで効果を出すためには、同時にサービスのリニューアルも重要です。ハードとソフトの相乗効果で、新しい魅力を印象付けることができますから。設計者として、ぜひ経営・運営者にお願いしたいところです。
嶋野 以前のような、大きな投資をして立派なホテルをつくり、徹底した清掃で集客力を長期間維持するという取組み方は、現在は難しい。どんなに立派なホテルでも、数年以上、料金も利用システムも設備もサービスも変わらなければ、やはりお客様に選ばれなくなってしまいます。
関口 周辺ホテルの内容を知らない経営者も少なくないように思います。組数はチェックしても、どのような料金体系、サービス、設備で、どのような客層を集客しているのか。そこまでは調べない。でも、競合店の内容を知れば、自社ホテルの強みと弱みが明確に見えてきて、何をしなければならないかが、わかってくるはずです。
 とくに多店舗展開している運営企業などは、あの手この手で、お客様にお得感を感じてもらいリピートさせるさまざまな仕掛けを施して集客に臨んでいますから、競合店の内容調査は重要です。
 
現代版4号営業の空間演出が必要

――値下げは限界にきていると言われながら、まだ単価低下が続く……。
嶋野 集客力が低下しているホテルでも値下げをすれば、瞬間的にお客様は増えます。しかし、そこで訪れたお客様は、次回来店につながらない……。
関口 値下げをして高稼動しているホテルを見て、値下げに踏み切る。しかし、料金が一緒になっても、設備やサービスはどうなのか。それらが劣っていれば集客は持続できません。
嶋野 料金を下げて組数がそれほど増えなければ、利益が減少するだけで、その後、新しい魅力を付加するコストがさらに捻出できなくなります。
 改装も難しい、サービスも難しい、低料金しかない、というホテルもあるでしょう。それなら、徹底的にシンプル化を図るべきです。例えば、飲食やサービスは一切行なわず、フロント横にコンビニを作って対応する。それでサービスのコストも人件費も抑え、ホテルの基本機能を維持するコストを確保する。飛行機にもファースト、ビジネス、エコノミーがあり、最近ではサービスを徹底的にカットした格安航空会社(CLL)も登場。それぞれにニーズがあるわけです。ホテルも同様。自社ホテルが、どのポジションで戦うのか、明確にしていないことが、集客力の低下だけでなく、利益を低下させてしまう要因になっていると思います。
関口 ホテルによって客層は明らかに違います。商圏内の全ホテルがライバルではない。ポジションを明確にしてライバル店を絞るこが必要です。
――多額の投資が難しいなかで、集客力のあるデザインや設備とは。
関口 現代版の4号営業ホテルだと思います。これまでリゾートやシティホテルのような方向に進んできましたから、4号だからできる空間、円形ベッド、鏡、等々による空間演出は訴求力が高いはずです。コストがかかっても、それに見合う単価のとれる客室になると思っています。
嶋野 現代人の感性に訴えるような、品があるけどエロい空間、ドキドキできるサプライズ空間、そういった客室はセールストークのネタにできますから、運営側としてはぜひつくっていただきたい。
 設備は、いま明確に差別化できるアイテムがない……。VODが注目されていますが、郊外立地で滞在時間の長いホテルなら有効的ですが、短時間利用の都市部のホテルでは、映画を見るお客様がどれだけいるか。つまり、他のホテルに入っているからではなく、自社ホテルに必要かどうかを見極めて、取捨選択していくことが重要でしょう。いま面白いのは「全室60インチTV導入!」。これは集客力になる謳い文句です。60インチもかなり安くなって、でも一般家庭にはない大きさですからね。
――浴室の改装はコストがかかるだけに、老朽化が進んでいるところも……。
関口 予算が限られている場合は、ユニットで対応します。在来工法と比べて半分程度のコストながら、ジェット・ブローや水中照明も付けられます。ただ、やはり客単価との兼ね合いです。客単価がとれるなら、在来工法でゆったりと魅力的な浴室をつくれば確実に高い訴求力があります。
――サービス面では。
嶋野 飲食、イベント、豊富なアメニティ等々、これ以上何があるのかというほど、多くのホテルが力を注いでいます。そうなると、ポイントは、タイムリーに実施できる企画力と実行力、そして外部告知力。とくに入口周辺でどう告知していくかが重要です。設計・デザイナーと相談して、バックライトで告知できるスペース等を作っておくと活用しやすいですね。プチリニューアル実施時なども、こういった外部告知をすると効果が大きく違います。
――厳しい市場環境下でも、集客回復につながるさまざまな取組み方があることが再確認できました。次回からは、テーマを絞りさらに具体的な手法を伺いたいと思います。

PROFILE

㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に15店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴20年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.14(2012年10月31日発刊)