[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点>・・・ローコストリニューアル

 市場縮小の経営環境下において、集客力を回復させ利益が確保できるリニューアル(=新しい魅力の創出)とは何か。デザインと運営の視点から探る第4回目の対談。今回は、ローコストリニューアルで効果を上げるポイントは何か、検討していただいた。

改装の意欲は高まるがリスク回避の意識も強い

――今春以降の売上状況は、いかがですか。
嶋野 当社管理のホテルでは、前年比微増を示すホテルが多い。ただ、トータルで見れば前年比並みといった状況です。業界全体として、売上が回復に向かうような雰囲気は感じられますが、あくまで雰囲気。実際には売上を伸ばしはじめたホテルがある一方で、厳しさが続くホテルも多いのが現状です。売上を伸ばしているのは、地域1番店、2番店。やはり、ハード・ソフト両面から、さまざまな集客対策に取り組んでいます。地域内で下位のポジションにあるホテルは、まだまだ稼動が厳しい状況が続いています。

――今年前半のリニューアルの動きは……。
関口 ここにきて、経営者のリニューアル意欲は高まっていると感じます。この数年、追加投資をせずにジリジリと売上が低下を続け、さすがに「このままではいけない。景気回復の兆しも見えはじめ、何かしなければならない」と思いはじめている。実際に相談も増えています。しかし、最終決断の段階で尻込みしてしまうケースも少なくない。ここで追加投資をして、はたして回収できるだけの売上アップが可能なのか……。リスクを抑えたい気持ちが、まだまだ強いですね。
嶋野 この5~10年を振り返ると、多くのホテルが、売上の低下に伴い経費削減の方向に向かってしまった。その結果、利用者に新しい魅力を提供できない状況が続いた。現在の利用者減少という状況は、社会情勢のせいだけではなく、ホテル自体にも問題があるといえます。このままでは5年後、10年後、利用者はさらに減少してしまいかねない。厳しい環境の現在をいかにしのぐかは、もちろん重要です。しかし将来を考えれば、利用者に喜ばれるホテルづくりに、もっと積極的に取り組まなければならないと思います。

――従来に比べ、追加投資の間隔が長くなっている……。
嶋野 周辺ホテルの状況も関係しますが、やはり継続的な追加投資で新鮮さを常に打ち出していかなければ集客力の持続は難しい。10年間、追加投資がなければ、当然ながら老朽化、陳腐化が進み、売上は低下してしまいます。現在、残念ながらそういったホテルがとても多い。清掃や企画、利用システムといったソフト面だけでは、やはり限界があります。
関口 数年ごとのリフレッシュと10年に一度のリニューアルは、集客力の持続にやはり必要です。しかし、いま10年に一度のリニューアルをして、売上がどの程度上げられるのか。まだ自信をもって臨めない、という状況
です。

メリハリをつける予算配分

――できるだけ少額の投資で売上を回復させたい。ローコストリニューアルがキーワードになっている……。
関口 本来、10年に一度のリニューアルに臨むのであれば、大きく時代が変わっているわけですから、車から見える外観、アプローチ動線、フロント、通路、客室と、利用者の動線に沿って自社ホテルの各所を見直して、どこでどのような演出をすれば利用者の満足につながるか、細かく検討しなければなりません。しかし現状は、限られた予算内でどうするのかが優先される。そうなると、なかなか全体をトータルに見て改善していくことが難しくなってしまうといえます。

――限られたコストで集客力につながる魅力をつくり出すには……。
関口 やはりメリハリを付けるということしかありません。コストをかける部分と抑える部分を明確に分ける。コストをかける部分は、ホテルによってケースバイケースですが、客室内なら、入室時にまず目が行くのがベッドですから、とくにベッドヘッド周りは重要。その他の壁面等は極力コストを抑える。その他の部分については、周辺ホテルの状況とそのホテルの状態に応じて重視部分を決める。ローコストリニューアルのポイントは、予算配分です。
嶋野 以前、あるホテルの支配人からローコストリニューアルで、とても綺麗になったから見に来てほしいと。確かに、クロスもカーペットもソファ・テーブルも新しくなって綺麗でした。でも、綺麗なだけ……。運営の立場から言えば、リニューアルするなら利用者を感動させるセールスポイントになる箇所をつくってほしい。それがあれば、外部告知の効果も高く、新規客も取り込みやすくなります。
関口 限られたコストで、すべての部分を万遍なく改装しようとすると、感動や驚きにつながる訴求力の高い空間はつくれなくなってしまいます。均一に万遍なくというのは避けるべきです。どうしても予算が足りないときは、全室ではなく数室にする。そのほうが利用者にアピール力のあるリニューアルとなると思います。
嶋野 単純に綺麗なだけでは、ビジネスホテルとの競合になってしまう。やはり、どこかにレジャー・ラブホテルとしての感動や驚きを提供する要素が必要です。いま東京都内では、新しいビジネスホテルの開業が相次いでいます。同じ土俵で戦えば、利用者は分散します。ビジネスホテルにはない魅力を明確に打ち出していくことが、さらに求められると思っています。
関口 コスト抑制の結果ともいえますが、最近のレジャー・ラブホテルは、共用部の演出が希薄になっているように思います。しかし、利用者の動線に沿って効果的な場所で感動や驚きにつながる空間演出があると、非日常性を強く印象付けることができます。シティホテルでもロビーに大きな生花を飾るなどで、日常にはない高級感を醸し出しているわけです。ローコストリニューアルでも、共用部の演出はもっと重視すべきですね。
嶋野 分かりやすい非日常性の演出が必要ですね。1点豪華主義でいいと思います。あとは香りや音楽など五感に訴える仕掛けを、運営で工夫していけばいいわけです。

目標売上と投資額の見極め

――ローコストリニューアル時の設備の選択については。
関口 従来のようにフル装備を目指すケースは少なくなっています。ただ、何が必要なのかを考えての取捨選択というより、コストを抑えるために導入を諦めるケースが多い。
 高額な設備機器でなくても、利用者に喜ばれ、同時にホテルのセンスの良さを感じさせる機器類がいろいろあるように思います。例えば、ポーションタイプで美味しいコーヒーが飲めるお洒落なコーヒーメーカーなども面白いと思います。

――さらにコストを抑えた“プチリニューアル”の取組みについては。
嶋野 客室内のファブリックを変更する、照明の色を変える、飾ってある絵や写真を変える、そういった1室あたり数万円程度のいわゆるプチリニューアルは、集客力の維持に有効です。ただ、あくまで“つなぎ”です。リニューアルとリニューアルの間の集客力をプチリニューアルと運営企画でつなぐということです。また、以前も述べましたが、変更部分だけを見るのではなく、客室全体の雰囲気を捉えたうえで取り組むことが大切です。

――リニューアルにおける適正なコストの判断基準とは。
関口 コストを抑えることが目的ではありません。あくまで必要な売上・収益を確保するための追加投資です。レジャー・ラブホテルとしての感動や驚きを与える演出も含めて、コストをかける部分と抑える部分を、どれだけ適切に線引きできるか、これが重要です。
 リニューアルを相談される際には、最初にある程度の予算額が提示されるケースが多い。しかし、せっかくリニューアルするなら確実に効果が出て投資を回収できなければ意味がありません。周辺の状況とそのホテルの状態を見て、何をすべきか、そのためにどの程度のコストが必要になるか、私のほうから提案をして、それをもとに予算額と改装内容を詰めていくという取組み方が多いですね。
嶋野 経営者は、最小の予算で最高の改装を望みます。しかし、2,000万円と2億円ではできることが違う。現在の1室30万円の売上を40万円にするのと50万円にするのでは当然ながらコストが大きく違う。やはり事業計画を慎重に検討しなければなりません。
関口 リニューアル後の売上予測のためには地域の状況把握が必要です。近隣ホテルや気になるホテルは、常日頃から実際に利用するなど、稼動状況や内容を把握しておくことが必須です。

PROFILE

㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に15店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴20年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.17(2013年7月31日発刊)