売上をつくる「現場力」 ~現場スタッフは何を考え、いかに働いているのか

 人口12万人の地方都市、福島・会津若松市で2006年のオープン以降、1室70万~80万円の高売上を持続する「ホテル ド・キュー」。経営者の久保田正義氏が、その繁盛のカギとなる「ラブホテルの原点追求」と「スタッフの意欲向上」の経営手法をまとめた『地方発 ラブホテル繁盛考』を出版した。スタッフの意欲向上は「顧客満足は従業員満足なくして実現できない」との考えからだ。そのためにキャリアアップや報奨制度の整備にも注力する。では、実際の運営の現場で、スタッフは何を考え、どのように働いているのか。2店舗を管轄する統括マネージャー・神林知美氏と、「ホテル ド・キュー」のサブマネージャー・五ノ井由香李氏に、運営現場の話を聞いた。

働きやすい職場環境が意欲向上の基本
――ラブホテルの仕事の面白さ、大変さとは。
五ノ井 2011年の入社で6年目です。家事と両立できそうと軽い気持ちで入社したのですが、最初に職場に入ったとき、スタッフみんなが本当に真剣に「お客様に喜んでいただく」ということを考えて仕事に取り組んでいるのを見て、正直、驚きました。当社ホテルは、各スタッフが清掃も調理もフロントもすべて行なう体制なので、当初は仕事を覚えることで精一杯。でも、先輩スタッフの気配りやフォローがあって、前向きに取り組めました。そして、仕事に慣れてくると「自分の仕事がお客様に喜ばれている」と実感する瞬間があります。季節イベントなどで自分の提案が採用されて、しかも好評を得ると、すごく嬉しいですね。
神林 私は2008年の入社で9年目。当初はダブルワークでしたが、スタッフ間の挨拶や声掛けも明るくて、新人でも孤立感なく働きやすい職場の雰囲気だったことが印象に残っています。それで、2年後に正社員になり昨年に統括マネージャーに就任。管理職の立場になってからは、スタッフが成長して仕事ができるようになっていく姿をみるのが、一番嬉しいですね。面接に来た時は伏し目がちで小さな声で話していたのに、日を追って生き生きと仕事に取り組むようになっていくのです。
 どのような仕事でも、職場の雰囲気が基本。給料がよくても嫌な思いをしながら働いていたのでは、仕事の面白さなど感じられず、仕事を続けることはできないでしょう。当社ホテルは、「お客様に喜んでいただく」という明確な方向のもと、いいチームワークで仕事ができる職場環境を何より重視しています。さらに、しっかり働けば、時給がランクアップし、社長賞やマネージャー賞など金一封付きの報奨制度もあります。しかも、ランクアップの基準は、仕事のスキルが50%、職場環境への貢献が50%。久保田社長が、スタッフ全員が気持ち良く意欲的に働くことができる職場づくりを、明確に打ち出しているので、現場の管理職としても、とても働きやすい環境の職場になっているといえます。
五ノ井 私も現在は、サブマネージャーという管理職ですが、管理職としての仕事は、まだまだ未熟。性格が、引っ込み思案で、他の人との対話が苦手……。月1回、全スタッフと個別に「スタッフ面談」を行なうのですが、最初は、何を話せばいいのかわからなくて「最近どうですか?」「体調は大丈夫ですか?」と。面談時間は5分間が基本ですが1、2分しか話せない。統括マネージャーに何を話せばいいのか相談したこともあります。でも、面談を重ねるうちにスタッフからいろいろ話してもらえるようになっていった。自分が苦手なことが、仕事を通してできるようになっていく。これも嬉しいことです。当社ホテルでは、全スタッフが年間目標を決めて、バックヤードに貼り出していますが、私の今年の目標は「意思表示」。まだまだですが、徐々にできるようになってきていると思います。

意欲的な仕事への取り組みが細部の顧客満足を向上させる
――管理職として、スタッフの指導で重視していることは。
神林 当社ホテルでは、全員がメイクもフロントも調理も行ないます。このオールラウンドプレイヤー型のオペレーションは、スタッフがやりがいを感じて意欲的に働けるようにすることが目的。人それぞれ、確かに得手不得手があります。そこで月1回の面談が重要になってきます。得手部分を評価し、不得手部分についてはチーフや主任と連携してフォローしていくようにする。得手不得手は本人も自覚しています。得手部分で何らかの貢献をしていることが認められることが、仕事のモチベーションにつながっていきます。
五ノ井 たとえば調理では、最初の1、2回は一緒に調理し手順等の指導をしますが、調理自体はレシピに沿って行なえば誰でも仕上げることができます。重要なことは「自分が食べたいと思うように仕上げる」ということ。味も盛り付けも。このような調理への取り組み方を重視して指導しています。
神林 スタッフそれぞれに「お客様に喜んでいただく」仕事をしていこうというモチベーションがあると、細部が少しずつお客様の満足が高まる方向に進化していきます。例えば「トーストが焼き過ぎ」といったお客様からのクレーム。トーストの焼き加減は好みが分かれるので、どうしようかと担当者と悩んでいると、別のスタッフから「2枚重ねで焼くとふっくら焼けますよ」との提案。試してみると美味しい。すぐにレシピを変更しました。こういった取り組み方が、当社ホテルの目指す「ちょっとした心配りがある」サービスにつながり、同時にスタッフの意欲向上にもつながっていくといえます。

――女性視点で重視していることは。
五ノ井 清潔さは、男女関係なく必須条件です。ただ、嫌な臭いに関しては女性のほうが敏感だと思います。除菌消臭機は設置していますが、清掃時の換気も含めて、臭いのチェックを常に重視しています。
神林 たとえば、テーブル上に置くウエルカムプレゼント。ラッピングを少し工夫するだけで、可愛らしさが全然違ってきます。細部で、女性が喜ぶ演出はたくさんあります。それを積み重ねていくことが、ホテル全体の好印象につながります。
五ノ井 充実したアメニティも、女性のお客様から好評を得ています。ただ、現在は、新しいアメニティの選択なども、社長からの提案が多い。私自身、女性の視点で、お客様の評価につながるようなアメニティを見つけ提案できるようにならなければならないと思っています。
神林 当社ホテルの基本が「当たり前のことが当たり前にできる」ということ。洗面には化粧しやすいように椅子がある。ティッシュも使いたいときに使いたい場所にある。客室内のお客様の心理や行動を、女性の視点で見て想定して「当たり前のことが当たり前にできる」状況をつくっていかなければならないと思っています。女性視点といっても、デザインやモノだけではなく、細部にわたっての行動や心理を考えることが大切です。

――経費のコントロールについては。
神林 もちろん1組当たりの経費等は計算しています。ただ、当社ホテルは、バスタオル・フェイスタオルは各4枚ずつ、アメニティ等も豊富など、経費を抑えて収益を確保しようとするのではなく、経費を掛けることで価格を維持しながら集客力を持続させ収益を生み出そうという方向です。
 経費率は、売上が上がれば低下します。有料の飲食メニューをオーダーしていただければ、単価が上がり経費率は下がる。そのためには、魅力的なメニューを開発しオーダーしたくなるようなPOPを備える。こういった売上アップにつながる経費の掛け方を重視して考えています。

――最後に、自分自身のモチベーションを高めるには。
五ノ井 やはり、お客様に喜んでいただけることです。自分が一生懸命に取り組んだことが認められることは、すごく嬉しく、もっと頑張ろうという気持になります。
神林 マネージャー時代までは、ホテル内での仕事を最優先する生活でした。でも統括マネージャーになって、オン・オフの切替えとオフの充実が重要だと思うようになってきました。オフに、ホテル関係者以外の人たちと交流したり、ちょっとした旅行をする。そこから新しい発想が生まれます。それをどのようにホテルに採り入れていくかを考え、実行していく。それも、私自身のモチベーションになっています。
 異業種の人たちと話をすると、まだまだ多くの人たちがラブホテルに対して昔ながらの淫靡なイメージをもっていることが分かります。これを払拭すれば、もっとお客様が増えるはずです。多くの人に、ラブホテルはカップルが本当に楽しい時間を過ごせる素敵な宿泊施設ということを知ってほしい。そのためにも、私自身、魅力的なラブホテルづくりにもっと一生懸命に取り組んでいきたいと思っています。
(『地方発 ラブホテル繁盛考』より抜粋・再編集・・・『地方発 ラブホテル繁盛考』の内容はこちら

PROFILE

㈲久保田商会 統括マネージャー  神林知美
(かんばやし・ともみ)
2008年入社。当初は工場勤務とのダブルワーク。2年後にホテルの仕事に専念すべく社員に。「ホテル ド・キュー」のマネージャーを経て、2016年に統括マネージャーに就任
同 「ホテル ド・キュー」サブマネージャー  五ノ井由香李
(ごのい・ゆかり)
2011年入社。出産を機に理容師の仕事を離れ育児に専念。仕事の再開にあたり家事との両立を考えホテルを選択。2016年に「ホテル ド・キュー」のサブマネージャーに就任
掲載 LH-NEXT vol.33(2017年7月31日発刊)