[事業承継の留意点]――中小企業診断士の視点

経営の承継を通して事業活性化を図ることが事業承継の最大のポイント 
バルシア インベストメント&コンサルティング㈱ 代表取締役 中小企業診断士 細田悠太

「ホテル南の風風力3」(長野)等の経営とともに中小企業診断士としても活躍している細田悠太氏。前号から「中小企業の生き残り戦略」の連載をしていただいているが、今回は特集に関連し中小企業診断士の視点から事業承継の留意点を解説していただいた。

■承継先別の留意点
 事業承継先は主に次の3つであり、まず、それぞれの留意点を確認しておきます。
<親族内承継>
 通常は、事業承継税制や事業承継補助金等を基軸に10年程度の事業承継計画を立てます。しかし、レジャー・ラブホテルのような風俗営業会社はこれらが使えません。経営者の部下や経営者と生計を共にしている親族等が、風俗営業会社の株を過半数有している場合も同様なので、上記制度を用いない事業承継を考えていく必要があります。
<役員等従業員承継(外部招聘含む)>
 個人保証、自宅の抵当等の担保差入が最大の問題。特に精神的な重荷を外す必要があります。金融機関と交渉し担保負担を軽減する、または担保負担分の役員報酬を増額する、さらに前経営者が相談役等として会社に残り精神的に支える等の配慮が必要です。
<M&A>
 買収元企業を探すには、レジャー・ラブホテルの場合、ホテル売買を行なう不動産会社のほか都道府県の事業引継ぎ支援センター等に相談するのも良いでしょう。ただ、そもそも事業が売却可能か不可能かという問題もあるので、会社評価(特に客単価と回転率)を向上させ売りやすくする経営改善(後述)の必要があります。

■「財産の承継」と「経営の承継」
 どの承継先でも、事業承継の目的は、会社経営及びホテル運営のノウハウを受け継ぎ、これまでと同様のサービスや職場環境を提供することです。そのためには経営4大資源であるヒト・モノ・カネ・情報をスムーズに承継していく必要があります。しかし、それだけでは、将来の外部環境の変化や競合との競争に対応できません。経営者交代を通じて、事業の活性化を図ることまでを目的とすべきです。
 事業承継は、モノとカネを中心とした「財産の承継」と、ヒトと情報を中心とした「経営の承継」の2つに分かれます(図1)。このうち財産の承継に関しては、法務・税務の専門家である弁護士・税理士等に譲ります。
 本稿では、経営の承継を考えていきます。経営の承継は、(1)後継者の選定、(2)組織・管理の再構築、(3)ビジネスの再構築の3要素があり、これらの承継の完遂こそが、事業活性化のカギとなります。

■事業承継のプロセス
 では、事業承継のプロセス(図2)を通して、取り組みのポイントを掴んでいきましょう。
① 事業承継の必要性認識
 事業承継の必要性を認識していながらも、具体的に着手できないでいるケースも少なくありません。事業承継には5~10年が必要となることを認識し、早期に計画的な取り組みを進める必要があります。
 まずは、士業を交えて経営者と後継者候補との対話を実施することです。あとで「言った・言わない」といった感情的なトラブルになることも多いため、承継後まで見守ってくれる信頼できる士業が介入することが好ましい。
 次に、経営者と士業は、事業状況と今後の計画について、後継者候補へ説明を尽くし、承継意思を確認する必要があります。ここで、説明への強力な手助けとなる「経営診断報告書」と「経営計画書」を活用していただきたい。経営診断と経営計画立案を通し、経営者以外の経営陣を巻き込み、文書化で「言った・言わない」を排除し、事業状況を客観的に認識し、将来性を共有することができるようになります。
②経営の現状把握
 経営診断、経営計画に取り組むと、その過程で現状認識が鮮明となり、自社を取り巻く環境を正確に把握できることになります。ヒト・モノ・カネ・情報の現状を把握し、特にヒトや情報を中心とした経営体を統制するための課題を発見して、課題解決のための計画策定へと繋ぐことができます。
 ただし、現状の運営ノウハウを承継するだけでは、承継後のビジネスを安定して継続することは難しい。ここでは大局的な視野で、ビジネスモデル自体の見直しも含め、ビジネスの再構築を考慮していく必要があります。
③経営改善(磨き上げ)
 事業が魅力的でなければ経営(改善)計画を立て、経営改善を行ないます。親族承継・従業員承継(外部招聘)・M&A、いずれの承継先となっても、魅力的な企業でなければ後継者も買収企業も首を縦に振りません。したがって、経営改善により事業を磨き上げ、承継したくなる魅力的な会社を準備しておくことが何よりも重要です。
 この①~③までが事業承継の下地づくりです。ここまでは現経営陣が責任を持って統制を図る必要があります。
④事業承継計画策定
 ここからが本格的な事業承継の取り組みになります。後継者の育成とともに段階的に権限を移行する計画となる「事業承継計画書」を策定します。
 後継者が決まって承継の段階に入っているにもかかわらず、承継が円滑に進まないケースが多くみられます。その原因は、権限移行が明文化されておらず無計画、または計画・実行・評
価・改良(PDCA)ができていないことにあります。まずは事業承継の「計画」を立て、実行に移すことが肝心です。うまくいかない個所は士業とともに確認(評価)し、計画を改良していきます。
 また、後継者との関係がこじれているケースもあります。レジャー・ラブホテルの経営者は、人員の教育経験があまりない方も多い。特に親族の後継者に対して「過保護でありつつ失敗を看過できない」といった状況もよくみられます。一方、後継者も自分の不足している能力を認識できておらず、成長の機会も得られないまま、結果的に現経営陣の満足のいく経営力が習得できていないケースもみられます。
 このような状況に加え「外部環境が激変するなかで、既存の事業や運営方法のままで生き残りを図ることは難しい」と、現経営者が漠然とした不安を持ち、事業承継に対し消極的になってしまうケースもみられます。
 現経営者の不安を払拭するためにも、後継者には、創業者のような情熱をもって事業承継する「創業承継」の意識が求められます。「創業承継」の第一歩が、現経営陣・後継者・士業を交えて、事業承継計画書を作成することです。後継者の情熱・夢を実現する道程を明確にすることで、具現化のために何が不足なのかを理解し、さらに計画の実行により経営力を獲得していくことになります。
⑤事業承継実行
 事業承継は、主役である後継者が中心となって実行する必要があります。現経営陣と士業は、後継者の計画実行のサポートにまわります。これにより、円滑な事業承継を遂行できるとともに、実効性のある、後継者育成と後継者をサポートする体制が構築できることになります。

 中小企業経営者の引退平均年齢は67.7歳(中小企業庁調べ)。レジャー・ラブホテルの現経営者もこの年齢まで10年を切っている方も多いと思われます。5~10年の事業承継計画を考慮し、早めに検討を開始していただきたいと思います。
(季刊『LH-NEXT』vol.33/2017年7月31日発刊・掲載)

図1・図2