NEXT鼎談:次代のホテルづくり⑥

追加投資の仕方を再考する~いつ、どこに、どのように~ 

 従来のレジャー・ラブホテルは、10~15年で大規模投資の全面改装を施し、その間に何度かの小規模投資を挟むことで集客・売上を維持してきた。近年は、市場環境の厳しさから大規模投資のリスクを回避すべく連続的に小規模投資を続けるなど追加投資の仕方が変わってきた。いまどのような追加投資の仕方が求められるのか、有効なのか。今回は、追加投資をテーマに検討していただいた。

“攻め”の追加投資から“守り”の追加投資に変化

――近年、追加投資の仕方がかなり変わってきたように思えます。
嶋野 時代の変化、市場環境の変化ともいえますが、従来の“攻め”の追加投資から“守り”の追加投資に変わってきているといえます。近年は“売上は低下してきたが、まだ収益は出ている。それなら大きな追加投資のリスクは避けたい”。そういった状況です。確かに以前のように全面改装すれば1室1か月80万~100万円といった高売上が実現できる時代ではなく、改装後の想定売上が40万~50万円であれば、投資額も限られることになります。もちろん、改装内容によっては大幅な売上増が期待できる地域もありますが、その一方で、融資額が限られるという現実もあります。その結果、小規模な投資で部分改装や設備の一部入替を行ない、短期的に集客・売上の維持を図る、という取り組み方が多くなっているといえます。
関口 この2、3年、1件あたりの改装費は増加傾向です。これは、改装を先延ばしにしてきた浴室などの水周りが限界にきて対応せざるをえなくなったという背景もあります。大規模改装をすれば、現在の地域の上限売上を超えられるかというと、地域にもよりますが、まだ難しいというのが現状でしょう。その結果、追加投資額の判断ではリスクの抑制が優先される。この背景には、長期所有の経営ではなく転売も視野に入れて事業に臨む経営者が増えていることもあります。短期的な収益確保が優先されるケースが多くなっているということです。
品川 当社店舗の追加投資の状況は、19年前に新築オープンした渋谷店は、5年前にほぼ全面改装し、客室も外装もイメージを一新させました。その間の14年間は、クロスの変更や弱電設備の入替等の小規模投資を必要に応じて継続してきました。築30年の練馬店は3年前に大規模改装を実施。それまで、内装や弱電設備の変更はもちろん露天風呂を設けるなどの追加投資を継続してきたのですが、給水給湯の配管が限界になり大規模改装をせざるを得ない状況でした。ただ、その際の改装工事は、全面クローズはフロントロビー周りを施工する1週間程度にとどめ、別系統の配管を仮設置するといった手法で、営業しながらの改装を行ないました。
嶋野 全面改装しても長期間クローズしてしまうと、お客様が他の店舗の固定客になってしまい、戻ってくるまでに1年以上かかるといったケースも少なくありません。全面改装すれば一気に集客回復ができる時代ではなく、改装前よりも売上が落ちたと嘆くケースも見られます。工期が長くかかり、運営の手間もコストもかかりますが、営業を継続しながらの改装のほうが安全ですね。

連続的な小規模投資の成功のポイントとは

――効果的に小規模の追加投資を行なうには。
嶋野 以前の繁盛店は、売上が低下する前に、売上低下の兆しが見えた時点で追加投資を行ない、集客・売上の維持を図っていました。一度離れたお客様を呼び戻すには、さらに大きな経営努力とコストがかかってしまうということからです。現在よりもはるかに儲かっていたからできた取り組み方といえますが、現在も同様の考え方は必要です。売上が低下しはじめても、収益がまだ出ているからと何も手を打たなければ、売上低下は加速していきます。完全に客離れしてしまってからでは、回復のためには大規模投資が必要となってしまいます。
関口 小規模の追加投資を連続的に行なって成功しているのは、ある程度の売上があがっている店舗です。老朽化してしまった店舗が、部分的な改装をしても効果はほとんどなく、その投資は無駄金になってしまいます。理想としては、大規模改装で集客力を回復させた後に、部分改装や設備変更をこまめに実施し続けることなのですが……。
品川 現在の市場環境を考えると、経営者としては、やはり大規模投資は怖い。とりあえず2、3室を改装して様子を見たい、という気持ちはよくわかります。
 改装と修繕というのは、分けて考えるべきと思っていますが、修繕費をしっかりかけることが重要だと思っています。私自身、ホテル事業をはじめた頃は、月々の修繕費は少ないほうがよいと思っていました。しかし、例えばソファを20台まとめて入れ替るには大きなコストが必要。数台ずつ入れ替えれば、月々小額のコストで対応でき、しかも常にキレイな状態を維持できる。コンスタントに修繕費を掛け続ける重要さを親しい経営者からアドバイスされ、意識が変わりました。それ以降、ホテルの品質や新鮮さの維持がとてもやりやすくなったといえます。弱電設備の入替も同様の考え方です。大画面TVなども価格が下がったときにある程度の台数を購入し、各店舗の高額の客室から入れ替えていくという手法で臨んでいます。
嶋野 客室は商品ですから、不備を解消する修繕費や商品力を維持するコストを掛けることは不可欠です。ただし、客室内の傷んだ箇所を部分的に修繕し、その部分がキレイになったといって満足してはいけません。修繕しなかった部分の老朽化がかえって目立ってしまうこともあります。常に目に付いた問題箇所にこまめに対処し続けていく。これを継続すればお客様は確実に増えます。さらに、修繕でクロスを変えるなら、同色ではなく違った色合いにすれば同じコストで単にキレイになるだけではなくイメージチェンジになり、お客様に変化が伝わります。
関口 部分的に改修や変更をする際は、必ず客室全体を見て対応することが大切です。経営者の好みで部分的に変更していくとその部分はキレイになっても、客室全体で見たときに違和感が出てしまい落ち着かない空間になってしまうことが少なくありません。
品川 見た目が同じようだからとコストを抑えてチープな素材を使うと、現在のお客様は目が肥えているので見抜かれますよね。注意が必要です。
嶋野 経営者自らが陣頭指揮を取って小さな改修・変更を続ける。その熱意はお客様に伝わります。しかし、コストを抑えようと地場の工務店を使い、キレイにはなったが非日常感が失われマンションの一室のようになってしまうケースもみられます。一般住宅との違いを常に意識する必要があります。品川 それともう1つ。ホテルに視察に行くと、冷たい雰囲気の客室もあれば、温かくホッコリとした気持ちにさせる客室もあります。デザイン的な要素よりも、お客様を想うスタッフの気持ち、細部への気配りの違いが現れていると思うのです。これは経営者として常に重視しなければならないと思っています。

ファサードや看板宣伝広告への投資も重要

――外装等への追加投資の仕方は。
嶋野 客室は修繕や改装をしっかり行なっていて魅力的なのに、外観・ファサードは老朽化したままという店舗も見られます。これでは新規客は呼び込めません。外観・ファサード・看板は集客要素として重要。ただし順序としては客室が先。外観がキレイになったから利用してみたら客室は古びたままでは、再来店にはつながりません。
関口 客室はそれぞれ異なるコンセプトでも問題はありませんが、外装・ファサード・共用部は統一感が必要です。
部分改装の際に注意したいところです。
また、ホテル名と看板の変更は、改装の印象を強くお客様に伝えます。最近の看板は、インクジェットのビジュアルシートをライトアップする手法が増えています。コストを抑えながらイメージチェンジ感を出す手法といえます。
嶋野 野立て看板も作り放しはいけません。色褪せた看板ではかえって悪いイメージを与えてしまいます。
品川 政令改正後に野立て看板を撤去したホテルも少なくありませんが、費用が掛からなくなったと喜んでいてはいけませんよね。現在はネット関連の整備にコストをかけないといけない。宣伝広告への投資も重要だと思います。
嶋野 現在の市場環境を考えれば、確かに収益確保のために、コストの低減、無駄の排除、追加投資の抑制は重要です。しかし、近年の若年層の利用減少も、人口減少やセックスレス化だけではなく、若年層が行きたいと思うホテルづくりやネットを含め若者層にアピールするための投資をしていないからともいえます。守りの追加投資から攻めの追加投資へ、意識の変化が求められているといえます。

PROFILE

VLGグループ 代表取締役 品川尚子
(しながわ・ひさこ)
「HOTEL VILLA GIULIA」など東京・神奈川で3店舗を経営。女性の感性を活かした積極的な経営で繁盛店づくりに邁進。
㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に30店舗を運営管理。ホテル歴25年以上のキャリアを活かした運営力で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
2004年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで数多くのレジャー・ラブホテルを手掛ける。一級建築士。
掲載 LH-NEXT vol.32(2017年4月30日発刊)