<NEXT鼎談:次代のホテルづくり④>

いま求められる客単価確保の取組み 

 価格競争が限界にきているとの声も多いが、まだ価格低下が続くエリアも少なくない。従来のような高稼動が難しい現在、単価確保の重要性は極めて高い。いま、客単価をどのように考えるべきか。どうすれば客単価の維持・向上ができるのか。今回は、客単価をテーマに検討していただいた。

客単価が売上の上限を決める

――この数年の客単価の変化。
嶋野 価格競争が限界にきているといわれながら、まだ、客単価は低下傾向にあるといえます。とくに地方や郊外にいくほど客単価が下がっています。ショートタイム1,980円といった価格設定が一般化してしまっている地域もあります。さらに週末も価格をアップさせずに平日と同一料金の店舗も増えています。
 しかし、低単価・高稼動で、どれだけ売上があがるのか。例えば3.5回転のホテル。デリヘル利用中心のショートタイムで回転させるホテルは別ですが、通常利用なら現在ではこれ以上は難しいアッパーの回転数といえるでしょう。それでも、休憩3,000円で3回転、宿泊6,000円で0.5回転なら、1室1か月売上は36万円。これが売上の上限です。同じ稼動で休憩5,000円、宿泊8,000円にできれば1室57万円まで伸ばせます。1組当たりの経費はほぼ変わりません。いま、客単価をどうアップさせるか、それを考えることが重要だと思っています。
品川 当社の3店舗は、渋谷・練馬・厚木と立地が三者三様。渋谷の客単価は8,000円強、練馬が9,000円前後、厚木が7,000円弱。渋谷の客単価は10年前に比べると1~2割低下していますが、週末の価格アップ率が以前はかなり高かったことが理由。この数年でみれば厚木以外の店舗は大きな変動はありません。練馬は価格の高い特室が高稼動していることが客単価にも貢献しています。
 一方、厚木エリアでは、この単価だと高稼動は難しい状況です。でも、価格を下げて高回転させようとは思いません。経費が増え店舗の傷みが進むだけ。もちろん現在の売上で満足しているわけではなく、この単価でどうすれば組数が伸ばせるのか、悩んでいるのが現状です。どの店舗も大型TVにVOD、ブロアバスなど充実した設備を備えハード面の差別化は難しい。では、ソフト・サービス面で何が有効なのか。試行錯誤中です。

――改装計画時には、客単価をどのように考えるのですか。
関口 改装コストの検討では、どの程度の客単価が確保できるかは、重要なポイントです。同一商圏内で、改装後に競合を想定する店舗のハード・サービス等の内容を調べ、同等レベルか上回る内容が提供できるなら、単価も対等かやや高めの設定ができます。
 ただ、注意しなければならないのが、地域により利用者の値ごろ感が違い、単価の上限も異なるということです。大規模投資で圧倒的なグレードに改装しても、現状の地域1番店の単価よりも1,000~2,000円高くなると集客が難しくなるエリアが多いといえます。さらに問題なのは、大規模投資の改装をしながら低価格で訴求している店舗がある地域。そういった店舗が商圏内にあると、改装内容や料金設定は非常に難しくなります。
嶋野 地域による単価差は確実にありますね。同じ北関東で、それほど距離が離れていなくても、適正な客単価が得られているエリアもあれば、価格低下が進み、改装して料金アップをすると集客が厳しくなるエリアもあります。価格低下が進むエリアだから何もできない、店舗の淘汰による需給バランスの回復を待つ、という経営者もおりますが、それでは店舗が減少したときには、エリアの利用者も減少してしまっています。
 客単価低下の最大の要因は、経営者の“守り”の意識ではないかと思うのです。リスクを避け、改装や設備導入を控える。そのなかで集客を確保しようとすると、価格訴求しかなくなる。もちろん、市場には低価格のホテルも必要です。高価格から低価格まで価格の幅があることが正常だと思うのですが、ここでもリスクを避けようとして中間価格帯に集中してしまいます。横並びで、ハードやサービスの明確な差別化ができなくなり、価格訴求しかなくなる。この流れからの脱却が、急がれていると思います。

客単価確保のために何をすべきか

――周辺で価格低下が進むなか、客単価を確保するには。
品川 カップル客が利用して満足するホテルづくりを進める。これしかないと思っています。デリヘル利用客も大切なお客様です。しかし、その需要を重視したショートタイム・低価格では、カップル客が満足するようなリネンも備品もサービスも提供できなくなります。
 極論すると、平日で客室が半分しか埋まらないとしても、価格を半額にして満室にしようとは思いません。空室があるなら、徹底して清掃とメンテナンスを実施すればいい。組数が低下すると現場スタッフからは価格を下げたいという声も出ます。でも、価格を下げてどんな魅力で訴求するのか。会議をやっても面白いアイディアはなかなか出てきません。備品やサービス品のコストを下げればチープなイメージを与えるだけです。あくまでカップル客を大事にしたホテルづくり・運営で、お客様から愛されるホテルを目指す。建前ではなく、この方向しかないと思っています。
嶋野 確かに地方、郊外では、高単価では集客できないエリアもあります。そこで大規模投資の改装をしても回収できません。しかし、無料貸出品を100種類揃える、入浴剤を30種類揃える等々、それほど費用がかからない価値向上の対策はたくさんあります。それらで周辺ホテルにはない魅力を打ち出していくことが必要です。

――単価アップが難しければ改装コストも抑えざるとえない……。
関口 この1、2年、1案件当たりの投資額は増加傾向ですが、やはり圧倒的なグレードのホテルを目指すケースは限られます。それで成功するエリアもあるのですが、リスク回避の意識というのは、経営者だけではなく金融機関にもあり、改装資金の融資額が限られてしまうケースも多いというのが現状です。
 もちろん、限られた改装費で、単価をアップし集客も増加させたというケースは多数あります。ただし、客室も外観もイメージチェンジできることが条件です。客室内だけ魅力的に改装できても、外観が変わらなければ新規客の獲得力は弱い。改装費を抑えて客室だけ、あるいは外装だけという改装は、かえって費用対効果が低くなると考えたほうがよいでしょう。
 また、単価アップには、品川さんの練馬のホテルのように、高単価で高稼動する魅力的な特室を設けることも有効だと思います。ある程度の広さの客室面積と露天風呂が必要でしょう。新法の客室数の多いホテルなら2室を1室にする方法もあると思います。

――付帯売上での単価アップは。
品川 厚木と練馬の店舗では、飲食サービスに注力し、とくに調理師の資格のあるスタッフが手作りで提供する月変わりサービスメニューが好評。客単価にも貢献しています。ただ、その目的は販売による売上・収益ではなく、集客力です。ステーキなどはほぼ原価販売。飲食だけではなく物販・各種サービスも多彩なメニュー・アイテムの提供を重視していますが、それぞれ付帯売上よりも、あくまで来店の“呼び水”となることが目的です。
嶋野 当社でもワンコインのサービスフードを月替わりメニューで提供し好評を得ている店舗があります。500円×2人の単価アップは大きい。でも、私も売上よりも集客に活かしたい考えです。スタンプサービスを絡めて10個たまれば「マル秘・裏メニュー」をサービスといったイベント化で、楽しさにもつなげようと計画中です。こういった、細かな取組み1つ1つの積み重ねが単価アップ、集客アップにつながっていくと考えています。

――料金体系の変化は。延長料金売上はかなり減少しているのですか。
品川 現在は、延長料金売上は、ほとんど期待できないですね。ほとんど時間内で退室します。
関口 24時間休憩のタイムシェアも増えています。利用者にとっては便利でお得ですが、これもシミュレーションすれば売上上限が抑えられてしまうことがわかるはずです。
嶋野 従来のレジャー・ラブホテルは早めにホテルに来たお客様からは、休憩+前延長+宿泊で高額な単価を得られた。しかし、こういった料金体系は現在では不可能。その一方、女子会プランで、通常宿泊8,000円のところ1人4,000円のお得感のある設定ながら、実際は3人で12,000円といった単価アップ策も可能になっています。
品川 お客様にとって利用しやすく売上にもつながる料金システムについては、近隣の繁盛店の料金システムなども含め検討しています。宿泊チェックインタイムも以前より早くするホテルが増えていますが、時間だけを変更しても意味がありません。外出可で荷物を置いて食事に出られるような、自由な利用システムに変更しなければ、お客様にとっての魅力につながらないと思います。
嶋野 適正な客単価で集客増加も図る。そのために何が必要か。各ホテルでできることは、まだまだたくさんあるといえます。

PROFILE

VLGグループ 代表取締役 品川尚子
(しながわ・ひさこ)
「HOTEL VILLA GIULIA」など東京・神奈川で3店舗を経営。女性の感性を活かした積極的な経営で繁盛店づくりに邁進。
㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に30店舗を運営管理。ホテル歴25年以上のキャリアを活かした運営力で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
2004年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで数多くのレジャー・ラブホテルを手掛ける。一級建築士。
掲載 LH-NEXT vol.30(2016年10月31日発刊)