[インバウンド獲得の現状]㈱ギブ・アンド・テイク 代表取締役 加藤 篤

収益の出ない小規模ラブホテルをインバウンド個人旅行獲得で再生
――「HOTEL The G」(大阪市天王寺区)

 大阪・生玉のホテル集積地に立地する「HOTEL The G」(地上7階建・15室)。2014年にインバウンド個人旅行客を中心とするホテルに方向転換し、ラブホテル時代に比べ単価向上・経費低減で収益大幅増を実現。その経緯と実態を、経営者の㈱ギブ・アンド・テイク代表取締役・加藤篤氏に伺った。

単価低下が進み高稼動でも収益が出ない

――インバウンド中心のホテルに転換された経緯をお聞かせください。
加藤 このホテルを取得したのが2012年。取得直前の状況は、5回転以上していたのですが宿泊はほとんどなくショートタイム中心で、客単価1,500円前後、1室1か月売上約20万円、収益はほとんど出ていない状況でした。
 取得後に約1,000万円を投じ名称変更を伴う改装を施し(内装:ユニックス、浴室:タケシタ)、売上は3割程度伸びたのですが、その後、エリアの風俗業者の撤退などもあり組数が減少、単価低下もさらに進行……。
 そこで、フロント対面の新法ホテルでしたのでネット予約での一般客の宿泊獲得を狙い「楽天トラベル」と契約。宿泊が増加したことから、「じゃらん」とも契約、さらに「agoda」と契約しインバウンド客の受入れもスタート。これに伴い、基本的に宿泊のみのビジネスホテルに営業形態を転換。当初は、現金払いからクレジットカード払い・旅行会社払いになったためキャッシュがたいへんでした。取引業者の方々に営業形態転換を説明し協力していただけたことも転換を図れた要因です。
 そのほか在庫管理も問題。当初、複数のOTA(オンライン・トラベル・エージェント)の在庫を私自身が管理していたのですが、オーバーブッキングを出し知人のホテルに受け入れてもらう事態も発生。そこで、自動的に各サイトの在庫を管理する共有在庫管理サービスを採用。これなら販売チャネルを増やせるので、その後、国内では「るるぶ」「HIS」「ベストリザーブ」「ヤフートラベル」、海外では「エクスペディア」「ブッキングドットコム」とも契約。現在、9社のOTAから送客を受ける状況となっています。
――インバウンド客をメインにしたのは……。
加藤 私がラブホテル業界に参入したのが12年前。ただ、それ以前に外資系シティホテルで10年ほど勤務経験がありました。セールスを担当し台湾・韓国などからの団体客・個人客の獲得を行なっていたので、インバウンド受入れに戸惑いはありませんでした。
 宿泊稼動の売上は、単価×稼動率です。客室はダブルのままなので、国内ビジネス客のシングルユースよりもインバウンドのダブルユースのほうが単価が高い。またインバウンド客は1~2か月前からと予約時期が早い。そこで、まずインバウンド客の予約を取り、埋まらなかった客室を国内ビジネス客に販売するという考え方です。
――団体客に対しては。
加藤 団体客の受入れには、大型バス1台分(約40人+添乗員、運転手等)に対応する客室数と朝食提供が必要。15室で厨房・レストラン設備のないこのホテルでは団体客には対応できません。それに団体客は単価が抑えられ、旅行会社からの契約解除のリスクも残る。団体客の受入れには十分な検討が必要だと思います。

単価約11,000円、稼動率85%、経費はほぼ半減

――インバウンド客の内訳は。
加藤 今年の利用状況は、韓国(30%)、台湾(25%)、香港(22%)、中国
(9%)の順。昨年もほぼ同様です。
――インバウンド中心の営業のために変更したのは。
加藤 取得時に改装していたので、設備面ではWi-Fiを導入し、幼児連れのお客様に向けて貸出のエアベッドを用意した程度です。あとは英語のインフォメーションやPOP等を作成。客室内の備品やリネンは変更していません。
 フロント担当者もラブホ時代からの3人がそのまま3交代で対応。翻訳サービス等は使用せず、スマホの翻訳アプリと片言の英語で対応。アジア圏のお客様でも個人旅行者は片言の英語は話せるので問題はありません。流暢に外国語を話せなくても、いわゆる“世話好きな大阪のオバチャン”的な親身になって対応する接客は外国人から好評で、ブッキングドットコムも8.0と高評価です。ただし、文化・風習の違う外国人には、毅然とノーと言うことも重要。その線引きは必要です。
――現在の売上や経費は。
加藤 現在、ADR(平均客室単価)は約11,000円で稼動率は約85%。1室1か月売上は30万円弱。ただし、経費がほぼ半減したので収益率は大幅に向上し50%台です。経費低減で最も大きいのが水道代で月37万円から7
万円に。重油代もリネン費も大きく低減。客室メイクは1回だけなので人件費も約40%の低減。さらにラブホテル時代は常に募集広告を出し、それでも人手が確保できずに私自身もシフトに入る状況でしたが、2014年以降、募集広告は1回も出さずにすんでいます。
――手数料等の新たな経費は。
加藤 各OTAへの送客手数料は、事前決済か現地決済かなどで異なりますが10~18%。クレジットカードが5%、共有在庫管理サービスが5%。トータルでは約20%といったところです。ただ、これらの手数料は、経費低減分と価格設定で十分にカバーできます。
――今後のラブホテルからインバウンドホテルへの転換については。
加藤 地震などの災害や為替の状況で一時的にインバウンドが減少することもあるでしょうが、中長期的にはインバウンドは増加し宿泊事業にとって追い風が続くことは間違いないでしょう。
 大阪市内でもビジネスホテルの新規開発が相次いでいます。ただ新規ホテルは、その投資額から高料金にならざるをえない。ラブホテルからの営業形態の転換は、価格面でも競争力は十分にあるといえます。
 また、純然たるラブホテルもカップルのインバウンド客には観光資源になるといえます。ラブホテルに泊った外国人観光客がSNSでその魅力を発信するケースも数多くみられます。ただし、現在のOTAではラブホテルの登録は難しい。いかに告知できるか。アルメックスの海外向けサイト「Love inn Japan」に期待しています。
 もちろん、適正な単価で回転稼動できるのであれば、従来のラブホテル営業の方が高収益事業です。ただ、低迷状態で収益回復が見込めない小規模ラブホテルでも、立地によってはインバウンド獲得で再生できるといえます。さらに、収益の出る一般ホテルとなれば、異業種企業への売却も可能となり、資産の流動性が高まる可能性があるともいえます。

《掲載LH-NEXT vol.29(2016年7月31日発刊)》