<NEXT鼎談③:抑えるコストと必要なコスト いま求められるコストの掛け方>

 従来のような高稼動・高売上が難しくなっている現在、改装コスト・ランニングコストともに削減傾向が進む。しかしコスト削減で集客力は生み出せるのか。いま抑えるべきコストは何か。必要なコストは何か。今回は、コストの掛け方をテーマに、経営・運営・デザインの視点から検討する。

必要なコストまで削減していないか

――この数年、さまざまな面でコスト削減が進んでいますが、コスト削減の状況は。
嶋野 運営会社として利益の確保は最優先事項。無駄なコストを削減する、効率化を図る等々、コスト管理はシビアに求められます。確かに、大幅な売上低下が続いた数年前は、コスト削減による利益確保を余儀なくされた時期もありました。しかし、現在は、コストを掛けて売上を伸ばし収益を確保する、という考え方に改めています。コストを削減して収益を確保しようという方向では、短期的に収益は確保できても、売上は確実に低下していきます。無駄なコストを削減することは重要。しかし、掛けるべきコストを掛けなければ、レジャー・ラブホテルとしての魅力=非日常性が提供できなくなる。その結果、集客力が低下し、単価を下げざるを得なくなり、売上が下がっていく、悪循環に陥ってしまいます。
品川 私も同様の考え方です。この数年、照明のLED化を進め人感センサーなども採用し、空調もエコタイプに変更。これらで、夏季の電気代は20%程度の削減ができています。ただ、アメニティなどの備品類はクオリティ低下につながるコスト削減は行なっていません。やはりホテルの魅力になる部分にコストを掛けなければ、単価も集客も維持できないと思っています。
 当社の3店舗のこの数年の状況は、渋谷は好調、練馬は維持、厚木は苦戦。苦戦の厚木エリアは、経営交代・改装オープンが相次ぎ、市場の状況がかなり変化しており、そのようななかで、何にコストをかければ売上につながるのか、正直、見えにくい状態になっています。
嶋野 基本的にリネンやアメニティなど、お客様が直接的に触れるモノ、実感するモノにはコストをかけたい。例えば、バスローブ。なくてもお客様は困らない。でも一般の家庭にはない。だったら置く価値がある。アメニティも、コストがアップしても業界流通品よりも一般消費者が認知している話題の新商品を採用したい。
 売上を上げるためにコストをかける。つまり、経費額を削減するのではなく、売上を上げて経費率を下げるという考え方です。経費率は50~55%に抑えることを基本にしていますが、利益確保ありきで経費を削減するとお客様はついてきません。人件費を削減してサービスや清掃のレベルが低下すれば売上は確実に下がり、人件費率はかえって上昇していきます。
品川 それは渋谷の店舗で実感した経験があります。数年前、業界全体で売上が低下した時期、さらに店舗自体の老朽化も相まって売上が大きく低下。そこで人件費を削減したところ、清掃もサービスもレベルが低下。これではさらに売上が低下すると判断して、改装に踏み切り、適正な人件費に戻しました。その結果、売上が上昇し、以降、順調に推移しています。

――人件費はやはり増加していますか。
嶋野 最低賃金の上昇もあって確実に増加しています。それ以上に人手不足が問題。募集広告費は宣伝費に含めていますが、以前に比べてかなり増加しています。

――適正な人件費率とは。
嶋野 人件費増加傾向のなかでシビアな数値ですが、私自身は、自動精算機の店舗は20%、対面フロントでは25%を基準にしています。もちろん、店舗により一概にはいえませんが……。
品川 私も人件費率を下げたいなら売上を伸ばす、という考え方。当社の3店舗でも、客室の広さや稼動の特性で必要な人手が違う。各店舗をパーセンテージでみて同様の基準で判断はできません。必要な時間帯に必要な人手を、が基本。人手が足りなくて客室が仕上がらずに売れないのでは、意味がありませんからね。

改装のコストはいかに判断すべきか

――改装にかけるコストの判断も難しくなっています。
関口 昨年頃から、改装に掛けるコストは増加傾向にあります。ただ、どのくらいのコストをかけるべきか。これはケースバイケースとしか言いようがない。お客様がリピートしてくれる最低限の改装に必要なコストをまず算出。そこにどれだけプラスアルファできるか。そのプラスアルファのコストと売上増加の相関関係には、地域の市場状況も大きく関わってきます。
 さらに、築年数の経過した建物が増えていることもあって、集客のためのコストではなく、ボイラー・空調など稼動を維持するためのコストが必要となる。そうなると、限られた予算内で、集客のためにやりたいことはたくさんあっても、できることが限られてしまうといったケースが多いのが現状です。
嶋野 集客力を維持・向上させるには改装は絶対に必要です。しかし、エリアの市場性を見極めたうえで、どの程度の売上増加を目指すのか、そのためにどれだけのコストが必要か。その判断はシビアにすべきですね。都内であれば、数億円を投じて1室1か月100万円の売上を実現するケースも見られます。経営者の考え方次第ですが、市場の変化の早さを考えると、一気に大型投資をするリスクを避け、投資を2、3回に分けて70万~80万円を持続させる考え方もあると思います。
関口 1億円の融資を受ければ、利率や返済期間で月々の返済額は違ってきますが、ほぼ100万円前後。そのためには200万円の売上増加が求められる。それが可能かどうか。それが、掛けるコストの判断材料になると思います。
品川 ただ、同じ1億円を投じても、大都市と地方では、リターンが大きく違いますよね。
嶋野 ええ。残念ながら、現在、大きな追加投資をしてはいけない地域もあるといえます。地方の経営者から改装の相談を受けても、1室20万~30万円程度の表装変更や部分変更で月数万円の売上増加を図る。あるいは細かなサービスの強化等で、売上の維持、微増を図ることを勧める、といったケースもあります。
関口 地方で複数店舗を展開している経営者は、すべての店舗に均一に追加投資をするのではなく、地域の市場性を把握して、投資する店舗を選択することも必要だと思います。
品川 各地の経営者たちと話をしていると、一口に地方といっても、人口減少や経済の疲弊が進んでいる地域と経済状況の良好な地域と、その差は大きい。地方でもコストを掛けた改装をして、都心と同様の客単価ながら好調な集客状況の店舗も実際にあります。
嶋野 地方の場合、単価が取れるかどうかがカギですね。経済が疲弊している地域では、大規模投資でどんなにいいホテルをつくっても、高単価では集客できない。これが現状です。

いま、どこにコストを掛けるべきか

関口 建物の老朽化が進んでいて、本来は基本設備も含めた改装が求められる。しかし地域の市場環境によっては、基本設備まで入替えて今後20年の稼動を考えるのではなく、投資を抑えて、表装変更等で今後数年の延命を図るという考え方も必要だと思います。
嶋野 売上を上げるためにどこにコストを掛けるか、と考えるのではなく、売上の上がらない要因を見い出して、その対策にコストをかける。これは、確実に結果に現れます。
品川 当社では、1店舗・月々10万円を修繕費としてプールしています。この修繕費があると、例えばソファが壊れたら即座に買替えることができる。集客・売上を阻害する要因の対処を早急に行なううえで、有効な方法だと思っています。
関口 修繕・メンテナンスは、日々の集客にも重要ですが、改装にも影響します。先延ばしにして改装時にまとめてやろうとすると、改装コストが膨らんでしまい、本来、改装すべき部分の改装ができなくなくってしまう。そういったケースも少なくありません。
嶋野 売上が低下するなかで、いかに利益を確保するか、と考えるのではなく、ラブホテルとして儲かるために何が必要なのか、何をしなければならないのか。いま、これを真剣に考えるべき時期にきているように思います。
 ラブホテルとして事業継続が困難になって、インバウンドホテルに変更するケースも見られます。これなら日本政策金融公庫も融資します。しかし、立地が限定されるし、利益幅もラブホテルに比べたら小さい。
 その前に、もう一度、改装して経費をかけて、ラブホテルとして再生・回復できないか。それをもう一度、見直すべきではないかと思います。
品川 どのような方向にコストを掛ければよいのか。いま見極めるのが難しいのは確か。私自身も迷いがあります。私1人の視点、感性だけでの判断も危険。そこでいま、支配人たちに、それぞれが気になるホテルに行って実際に体験して、そこから新しい魅力を自社ホテルにフィードバックしていこうという取組みを進めています。
関口 周辺ホテルと横並びでは差別化にならない。周辺ホテルにないホテルづくりが必要。そのためには幅広い分野から情報収集をして選択していくことしかない。これは、設計者も経営者も同様だと思います。

PROFILE

VLGグループ 代表取締役 品川尚子
(しながわ・ひさこ)
「HOTEL VILLA GIULIA」など東京・神奈川で3店舗を経営。女性の感性を活かした積極的な経営で繁盛店づくりに邁進。
㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に30店舗を運営管理。ホテル歴25年以上のキャリアを活かした運営力で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
2004年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで数多くのレジャー・ラブホテルを手掛ける。一級建築士。
掲載 LH-NEXT vol.29(2016年7月31日発刊)