<NEXT鼎談:次代のホテルづくり―経営・運営・デザインの視点>

 市場環境が上向き始めてきたとはいえ、若者人口の減少、セックスレス・カップルレスの進行等々、レジャー・ラブホテルの利用者人口の減少は続く。
そのなかでシティ・ビジネスホテルの新規開業が相次ぎ、そのデイユースは一般化してきている。将来に向けて、レジャー・ラブホテルは、どのようなホテルづくりが求められるのか。経営・運営・デザインの視点から総合的に考えていく。

オンリーワンの魅力が環境変化にも対応

――この1、2年の状況は。
品川 都心・渋谷の店舗は好調で5年前の改装以降、売上は順調に前年比増を続けています。ただ、この好況が2020年の東京五輪以降も続くとは限らない。ミニバブル的な状況に安住せず、一般カップル客に支持されるという基本を忘れずに、細部の顧客満足も重視した運営を心掛けています。都内・練馬も安定した状況で、昨年も前年比増の結果。一方、神奈川・厚木の店舗は、数年前からの売上低下傾向が回復に転じ始めていたのですが、昨年秋に近隣店舗が改装オープンしその影響を受けている状況です。
嶋野 昨年来、市況は上向き傾向で推移している印象です。当社の運営店舗も昨年は約9割が前年比増の結果でした。とはいえ、都心部以外では、地域の利用者人口や全体売上が限られています。改装店舗があると利用者が増えるのではなく地域内で移動する状況ですね。もちろん、利用者ニーズを捉えた改装でなければ、改装効果による集客増は一時的なもので終わってしまいますが……。
関口 昨年頃から、改装の投資額が増加傾向となり、この数年のコスト抑制の表装変更から、一歩踏み込んで差別化につながる魅力を付加する作り込みも行なえる状況になってきています。しかし、地方においては、改装しても限られた利用人口内での集客増であり、料金も地域の相場を大幅に超えることは難しい。地域の売上の上限を見極めたうえでの投資額決定が重要という状況は続いています。

――チェーン店舗の進出・改装オープンで既存店が苦戦を強いられるケースが各地でみられる……。
嶋野 地域1番店を競うのであれば、やはり相応の投資を伴った改装や設備の追加が必要でしょう。しかし、最も重要なことは、自社ホテルの地域内でのポジションを見極め、同等のポジションの店舗との比較のなかで対策を考えるということです。基本的に、オンリーワンの魅力を打ち出していれば、近隣で改装があっても影響は一時的、もしくは最小限に抑えられます。
品川 オンリーワンのホテルづくりは、私も最も重視しています。ただ、近隣の改装で集客が低下すると、現場スタッフのモチベーションも下がってしまう。支配人は料金を下げても早急な集客回復を図りたがります。その気持ちは分かりますが、単価が下がれば、これまで力を注いできたオリジナリティのあるサービスを実施するコストが掛けられなくなってしまいます。目先の集客回復も図りたいところですが、常連のお客様の評価を大事にすることを基本に対抗策を考えていかなければならないと思っています。

――オンリーワンの魅力のつくり方とは。
品川 ホテルという業態に捉われずに、さまざまな分野や施設等から魅力的な要素を採り入れていくことを重視しています。以前、とても雰囲気のよいプールバーがあったので、何度も通ってその空間デザインをチェックして、練馬の店舗のロビーに採り入れるといったことも行ないました。また、当社のホテルでは数年前からクリスマス企画は12月25日で終了せず26日まで実施しています。24、25日に恋人とクリスマスを楽しめないサービス業に携わっている人を対象にした企画。アンケートなどをみても、少数派ですが、とても喜ばれています。ちょっと視点を変えれば、他のホテルにはない空間づくりやサービスはできると思います。
嶋野 そこが、とても重要ですね。まだまだこの業界は閉鎖的な環境で、経営者同士の情報交換も少ない。ホテル以外の分野や施設の流行をキャッチすることに積極的ではない……。「井の中の蛙」状態では、時代の変化に取り残されてしまいます。そして、もう1つ大切なことが、繁盛しているホテルの空間デザインやサービスをそのまま別の地域のホテルで実施しても、成功しないということ。地域のニーズをマーケティングして、地域にマッチした状態にカスタマイズして採り入れていくことが必要です。 
品川 私にとって、この事業に前向きに取り組んでいる多くの経営者の方々と横のつながりができたことが非常に大きい。そこでの情報交換はとても勉強になり、私自身のモチベーションアップにもつながっています。

業界の常識に捉われない創意工夫が必要

――施設面からのオンリーワンとは。
関口 オンリーワン=地域1番店を目指す、ということではありません。現実問題として、改装における費用対効果を考えると、2、3番店を目指す方がよいというケースは多い。例えば、1億円かければ1室50万円の売上が実現できるが、60万円を狙うには3億円かかる。当然ながら、収益をあげるための改装ですから、前者を選択すべきです。
品川 私自身は、これまで設計デザイナーにホテルの売上を求めたことがありません。売上は、経営者と設計デザイナーが二人三脚でつくるものだと思っています。基本的に、改装のコンセプトはホテル側がつくり、具現化の内容を設計デザイナーと一緒に考えていく依頼の仕方で臨んできました。
関口 それが、本来、求められる取組み方だと思います。ただ、そのためには経営者にマーケティングとコンセプトメーキングの能力が求められます。
嶋野 実際に、周辺ホテルの内容や消費動向などをリサーチしていない経営者も少なくありません。その結果、設計デザインに依存するホテルが多くなってしまう。反対に、経営者主導で表装変更を行ったら、キレイにはなったけれど、新築マンションのような何の魅力もない客室空間になってしまった、
ということも……。
 これは、運営委託・受託においても同様のことがいえます。運営会社としては、収益の確保が前提条件。そのために経費の削減にも取り組みますが、同時に集客・売上を伸ばすさまざまな仕掛けも行なう。そのための経費も含めた提案をオーナーに理解してもらえるかどうかで、売上・収益の伸び方が違ってきます。

――経営者には、より広い視野での取組みが求められる……。
品川 近年の改装ホテルを視察に行っても、斬新さや驚きを感じないケースが少なくありません。どこかで見たことがある、似通った内容が多い。経営者が、繁盛しているホテルと同じようなホテルに改装してほしいと依頼しているのかもしれない……。最近は、改装ホテルよりもデパートに行ったほうが面白い。ディスプレイなどからホテルに採り入れられる要素を数多く見つけ出すことができます。
嶋野 経営者には、創意工夫の意識が必要ですね。サービスや備品・アメニティにしても同様。隣のホテルとの横並び意識が強い。これでは、オンリーワンは無理です。最近、あるダイニングバーに行ったら、トイレが鏡貼りの壁面でとてもお洒落な空間でした。レジャー・ラブホテルのトイレをもっと異空間にできないかと考えています。
関口 住宅と商業施設では、トイレも違っていて当然だと思います。ただ、限られた予算を配分していくと優先順位が低くなってしまう。コストを掛けずに住宅と違ったトイレを、と思って音楽を流すことまではやっています。
嶋野 シティ・ビジネスホテルは進化しているのに、レジャー・ラブホテルは旧態依然の発想から抜けきれない……。アメニティやリネンも、業界の常識的な単価の範囲内で選択している。
関口 一般消費者がひと目でわかるブランドのアメニティを採用しようとするとレジャー・ラブホテルへの販売ルートがないことも多い。
嶋野 経営者自らが購入すればいい。当社でも、最近は客室にマッチした備品類をネットで探して購入することが増えています。
品川 テレビの情報番組や通販番組のチェックは不可欠ですね。話題のカフェやショップにも実際に足を運ぶと、ホテルで活用できる装飾手法やアイテムがたくさんあります。大きなコストをかけた改装は頻繁にはできませんから、細部で流行を採り入れていくことが新鮮さの維持に重要です。
関口 以前の改装で、露天風呂にシーン調光を採用したのですが、当初、担当業者は「できません」と。私がこの仕事を始めた頃は、経営者と設計者と関連業者が一緒になって、他にはない魅力的な空間を創り出そうと、面白がりながらチャレンジしていた。そういった取組み方がなくなってきているように思えます。
嶋野 空間デザインも用品備品も、既存のラインナップの中から選んでいたのではオンリーワンのホテルづくりはできない。業界の常識や既成概念を一度、取り払って見直すことが必要だと思います。
――創意工夫でオンリーワンを創る、これが大きなテーマといえそうですね。ありがとうございました。

PROFILE

VLGグループ 専務取締役 品川尚子
(しながわ・ひさこ)
「HOTEL VILLA GIULIA」など東京・神奈川で3店舗を経営。女性の感性を活かした積極的な経営で繁盛店づくりに邁進。。
㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に30店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴25年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.27(2016年1月31日発刊)