[リニューアル対談特別編]<デザインの視点・運営の視点>

 デザインと運営の両視点からリニューアル内容を考える連載対談。今回は特集に合わせ、宿泊利用に結び付く「居心地の良さ」を構築するには何が求められるのか、設計者と運営者の立場から、検討していただいた。

居心地の良さは全体的なバランス

――売上回復傾向を示すホテルが増えてきてはいますが、宿泊は苦戦しているという声も多い……。

嶋野 以前は、週末は満室が当たり前で、満室になる時間が早いか遅いかで、お客様に支持されているかどうかを判断していました。しかし現在は、週末でも苦戦しているホテルが少なくありません。ラブホテル離れは、休憩よりも宿泊に顕著に現れています。同時に、タイムシェアの増加によって、深夜の利用者が宿泊から休憩に移っていることもあります。

――休憩も、以前のフリータイムの長時間利用の訴求から、ショートタイムの増加に変化してきた……。

嶋野 その傾向もあります。ゆったりと寛いで長時間滞在してもらうためには、やはり、遊べる設備、充実した浴室、多彩な飲食、そして何よりも快適で居心地の良い空間が必要。この数年の改装の停滞で、それらが失われてきたことも、宿泊減少の背景にあるように思われます。

――設計者の視点から、居心地の良さとは。

関口 客室の全体的なバランスです。色も素材もデザインもレイアウトも、トータルな視点から整っていれば居心地の良い空間になります。しかし、近年の改装では、予算の問題から部分的な変更で、新しさと古さが入り混じり、違和感のある空間になってしまっているケースも見られます。一方、ビジネスホテルでも最近オープンした店舗では、トータルコーディネートされた居心地の良い客室もあり、レジャー・ラブホテルの宿泊客が奪われる要因にもなっているといえます。

――では、反対に居心地の悪さを感じさせる要素とは。

嶋野 臭いや汚れは問題外として、やはり狭くて天井が低い客室。レジャー・ラブホテルは窓がない客室が多いだけに息苦しさを感じてしまう……。
関口 狭い客室でも、利用者の目線を考慮した工夫で狭苦しさを感じさせない空間にすることは可能です。まず、ダークな色を使わない。そして予算に左右されますが、洗面スペースの区切りを工夫する、天井の一部を抜いてガラスを使う、照明を工夫する等々で、狭さはカバーできます。
嶋野 照明は、客室の印象を大きく左右しますね。
関口 ゆったりと落ち着いた気持ちにさせるには、暖色系の間接照明などによる優しい光が必要です。
嶋野 居心地の良さには、レイアウトも関係します。とくにベッドとソファ・テーブルの位置関係は重要。入室した際にどこに視線が向かうのか、客室内ではどのように動くのか、客室内の行動と心理を考えてレイアウトを少し変更しただけで、客室の印象と使い勝手が大きく変わることもあります。
関口 問題はベッドの位置です。ベッドパネルに配線が集中しているので変更すると配線工事が伴いコストが掛かってしまう。でも、配線工事や家具工事も含めて、機能性から見直して改装した客室は、狭くても使い勝手が良く居心地の良い客室になります。表装変更だけでは改装効果が低いというのは、そこに理由があります。
 また、客室の面積や形状が同一なのにバリエーションを出そうと、無理にレイアウトを変えているホテルも見られます。これは、わざわざ居心地の良くない客室をつくっているようなもの。レイアウトが同じでも、デザインでバリエーションは変えられます。
嶋野 あとから設備などを追加して、かえって居心地が悪くなってしまっているケースもありますね。とくに、天蓋ベッドの追加は要注意。柱でテレビが見えなくなったり、ソファに移動しようとすると足をぶつけたり……。
 運営会社としては、追加投資なしに運営方法や利用システムの変更で売上や収益を改善したいとは思うのですが、客室自体に問題があるとなかなか難しい。客室は、見た目のデザインだけではなく、機能性や使い勝手も含めて、居心地の良さという視点から見直すことが必要です。

居心地の視点から細部を再検討する

――居心地の良さの視点で細部を見ていきたい。客室の建材自体は。

関口 塗り壁とクロス壁、エンビ床とフローリング床、これは、どちらが居心地が良いかというのではなく、ホテルのコンセプトと客室内のバランスの問題です。私自身は、将来必ず改装が必要になる施設ですから改装のしやすさを重視して、クロス壁、エンビ床を選択するケースが多いですね。

――ベッドは、居心地を左右する大きな要素だと思いますが……。

嶋野 シティホテルや一部のビジネスホテルでも、ベッドやマットレスにこだわり、快眠をセールスポイントにするホテルが増えていますね。
関口 確かに、高級シティホテルのベッドは、明らかに寝心地が違います。
嶋野 ただ、レジャー・ラブホテルのベッドは、プレイの場所であり睡眠の場所でもあり、マットの固さ柔らかさも含め、その兼ね合いが難しいところですね。
関口 ダブルマットで寝心地の良さと高級感を訴求する手法もあります。ダブルマットはギシギシと音が鳴るのではとの懸念もありますが、実際には問題はないと思っています。ただ、ベッドが高くなるので天井高も必要です。
嶋野 いま注目しているのが、冷感パッドです。各社からさまざまなタイプが出ていて、実際に試したら、かなりひんやり感があって気持ちが良い。夏季に向けて採用を検討中です。
関口 寝心地感にはシーツやピローケースの品質も関係します。改装時には、これらリネン類の品質にもこだわった提案をするのですが、リネン業者の工場によっては対応できなかったり、見積りが高過ぎて諦めざるを得ないことも……。タオルも同様ですが、肌に直接触れるリネン類は、品質の善し悪しが利用者に確実に伝わるので、居心地の良さを左右する要素として重視しなければならないと思っています。

――レジャー・ラブホテルの非日常性と居心地の兼ね合いは。

関口 リゾートホテルのような非日常性は居心地の良さと同じ方向なので問題はありません。ただSM的な非日常性は、居心地の良さとは別問題として考えたほうがよいでしょう。プレイルームと捉えるか、宿泊空間と捉えるか。宿泊空間に採り入れる際には、できるだけベッドスペースとは別空間にするようにしています。

――居心地の良さというのはアピールするのが難しい……。

嶋野 手間とコストをかけて居心地の良さをつくりだしたら、やはり外部に向けて強くアピールすべきです。魅力的な写真を撮影して、周辺看板で大型の写真パネルで告知する。あるいは、フロントや客室選別機付近に、訴求したいイメージが伝わるような写真を組合せたPOPをつくり貼り出して訴求するという方法もあります。
関口 竣工写真は重要です。テーブル上の演出なども含めて、その客室のどのような雰囲気を訴求したいのか、カメラマンに細かく指示をして撮影することが必要です。
嶋野 居心地の良さを改善できる部分は数多くあります。客室に関して、見た目のデザインや設備だけではなく、居心地の良さの視点から細部を見直していく。それは宿泊利用の促進にもつながっていくと思います。

■連載バックナンバー
[リニューアル対談 (10)]<デザインの視点・運営の視点>・・・浴室改装の現状と今後求められる浴室の魅力
[リニューアル対談 ⑨]<デザインの視点・運営の視点>・・・老朽化の進行への対応
[リニューアル対談 特別編]<デザインの視点・運営の視点>・・・地方ホテルの活性化
[リニューアル対談⑧]<デザインの視点・運営の視点>・・・非日常性を再考する
[リニューアル対談 特別編]<デザインの視点・運営の視点>・・・商売と商業施設としての基本を重視、“変化”がお客様に伝わる改装が必要
[リニューアル対談⑥]<デザインの視点・運営の視点>・・・単価アップと集客力
[リニューアル対談⑤]<デザインの視点・運営の視点>・・・シティ・ビジネスとの競合に打ち勝つ
[リニューアル対談④]<デザインの視点・運営の視点>・・・ローコストリニューアル
[リニューアル対談③]<デザインの視点・運営の視点>・・・客室空間の再検討
[リニューアル対談②]<デザインの視点・運営の視点>・・・立地特性の変化への対応
[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点>・・・現状の問題点と対応策

PROFILE

㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に30店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴25年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.25(2015年7月30日発刊)