女性緊縛師に聞く― 緊縛の快楽

カップルのラブニーズを満たす演出としてSMルーム、あるいはSM設備・器具を設置するラブホテルは少なくない。では、SMの魅力とは何か。嗜好者は何を求めているのか。特殊な性癖なのか。女性緊縛師として活躍している荊子氏にインタビューした。

相手の感情に向き合って縄を掛けていく

―緊縛師に至った経緯とは。
荊子 学生時代に空間造形アートを学ぶなかで、モノを包む、縛る方法として緊縛と出会い、雪村春樹氏の緊縛写真に共感してアシスタント的な仕事をするようになり、そこで雪村先生の縛りに対する想い……縛ることで女性をどのように見せたいのか、縛りのディティールの背後には縛る人と縛られる人にどのようなコミュニケーションがあるのか、等々を知るにつれて、私自身、緊縛の世界に魅せられていったのです。

―緊縛の魅力とは。
荊子 真剣に向かい合って縛っていくと、相手がどんどん快楽の世界に堕ちていく……。縛られることで不自由になる、不自由だからこそ味わえる感覚があるのです。ただ、縛りは手段にすぎません。縄がなくてもいい。緊縛の魅力というのは、縛り方ではなく、その場の感情にあった縛りなのです。だから縛る相手の感情に向き合って縄を掛けていく。
 みなさん、縛られて吊るされた写真などを見たことがあると思います。でも、いきなり吊るしても意味がない。縛りから逃げようとする。そこで逃げられないように片足を吊り上げる。股間が露わになり恥ずかしいからもう片足で隠そうとする。それをできなくするためにもう片方も吊り上げる。つまり、吊り上げるまでに感情の流れがあるのです。その流れを捉えないと、単純に吊り上げる縛り方の技術を見せているだけになってしまう。
 緊縛師は、相手の呼吸、感情の変化を把握しながら縄を掛けていく。相手が何をしてほしいのか、わかっていながらあえて放置したり……。そういったなかで気持ちをどんどん昂ぶらせていくのです。女性は、縛られると性器の感覚が敏感になります。でも性器への刺激でイクのではなく脳内で快感を爆発させてやる。男性も同様で脳内での興奮を覚えると、性器への刺激はどうでもよくなってきます。

―縛りの背景にある感情の流れ。その終了点というのは。
荊子 通常のセックスは、射精で終了。でも、緊縛には終わりがないのです。女性は何度でもイクことができるので、とりあえず今日はこのくらいかなという時点で終了。一方、男性は、私のプレイでは射精させませんので、縄をほどいたあとに悶々として帰っていく。でもその悶々として帰る時間も、いわばプレイが続いているのです。

―男と女では縛り方に違いは。
荊子 相手が男性でも女性でも、基本的なスタンスは同じです。ただ、身体のつくりや柔軟性が違うので、その配慮は大切です。また、女性は、縛るだけで肉体も精神もすぐに反応して、全身が性感帯になり妄想の世界に入りやすい。ちょっとした言葉攻めでも妄想が一気に広がっていきます。でも男性は、その感覚を教えていかないとわからない。そういった違いがあります。

―SMのなかで緊縛というのは、日本独自のものですか。
荊子 縄で縛るというのは、海外にはないと思います。日本では、江戸時代から逆さ吊りで折檻している様子を描いた浮世絵もある。そもそも緊縛は、罪人を拘束する捕縛術から来ているといわれています。武士と町人と農民では縛り方が違っていた。そういった日本人の手先の器用さや独自の感性が、緊縛の世界を生み出したのです。

拘束され動けない状態が精神・感覚を解放する

―ワークショップやイベントで一般の女性を相手にされることも。
荊子 ワークショップは、北原みのりさんの「ラブピースクラブ」で開催したのですが、参加者はごく普通のOLや主婦。20代~ 50代と年齢層も幅広い。イベントなどでも同様です。女性限定だと、最初は恐る恐るといった感じでも、途中からは抵抗感なく参加者同士で楽しく縛りあっていますよ。
 参加者に縛られた経験を聞くと、ほとんどの方が「ある」と答えます。彼にタオルで縛られたとか。でもタオルではすぐほどけてしまうので、拘束ゆえの快感には至らない……。

―縛りを求めるのは決して特殊な性癖の人たちだけではない……。
荊子 ワークショップなどでは、最初に縄を見せると、それだけで縛られ吊るされてしまう印象を抱いてしまう。そこでスカーフやネクタイで手首や足首を縛ることから始めます。そして、縛り方だけではなく縛りに至る展開、縛ってからの展開の仕方も話す。そして体験してもらう。そうすると、拘束され身体が不自由で動けない状態になると、感覚が日常的ではなくなってくることがわかるのです。目隠しをすると視覚以外の感覚が敏感になってくるような状態ですね。

―一般の人たちが、縛りも含めたSMを楽しむうえでの注意点は。
荊子 「セイフワード」を決めておくことが大切。ギリギリまで責めたい、責められたい。でも、素人は限界を見極められません。“本当にこれ以上は無理”といったときに責めを止める言葉を決めてから臨んでください。

―最近のSMクラブというのは。
荊子 この数年、老舗の本格的なSMクラブの閉鎖が相次いでいます。一方、手軽に女王様に責められ射精もできるようなクラブが人気。でも、アルバイト感覚の女王様だと、鞭では大きな怪我には至りませんが、ビンタで鼓膜が破れたりといったこともあるようです。縛りも基礎ができていないと危険。それに見た目だけの縛りでは、緊縛の本当の喜びを感じることはできないのですが……。

―荊子さんは、緊縛セラピーという表現もされますね。
荊子 近年、セックスレス化が指摘されていますが、昔よりもはるかに手軽にセックスができる社会になっています。でも、性器を刺激するだけのセックスは肉体的な快感だけ。精神的には満たされない。ところが、縛って身動きが取れない状態にすると、実は瞑想状態になるのです。もちろん、すべての人ではありませんが……。拘束により抵抗することを全面的に放棄せざるをえない。その状態が精神を解放させる。ストレス過剰の現代社会で精神的なセラピー効果があると思っています。

―緊縛プレイでラブホテルを使うことは。
荊子 畳の床や縄を掛ける梁がほしいので、SM設備のあるスタジオを使うことが多いですね。ベッドのうえで縛るというのは足元が安定しないからけっこう大変なのです。

―拘束イスや張付け台を備えたラブホテルもありますが。
荊子 一般の人たちが使うことを考えると、女性が拘束されても痛くない設備ということが前提条件ですね。ベッドの4隅に手枷足枷が付いているといった仕掛けは、手軽で拘束感もあっていいと思います。アイマスクもいいですね。初心者同士では、相手の目を見ながら責める、責められるというのは恥ずかしい。目隠しがあれば恥ずかしさは感じませんから。
 また、最近はコスプレが充実しているホテルが多いですよね。昨年のハロウィンを見ても、女性のコスプレ好きは明らか。変身願望を満たすとテンションは確実にあがると思います。
 私自身、アダルトグッズは、ラブホテルで彼が購入して使ってみて、その魅力を知りました。つまり、ラブホテルというのは、自分からは一歩踏み出せない快楽の世界に踏み込むことができる場所だと思います。SMに関しても、自宅では無理でもラブホテルならちょっと試してみようかという気持ちになれるのではないでしょうか。拘束され責められる新しい快楽を知るきっかけになると思います。
 ただし、鞭を置くなら1本鞭ではなく柔らかめのバラ鞭を、縄よりも幅があり目隠しや猿ぐつわにも使える多目的なヒモがいい。そして、そういった仕掛けや道具も、消毒済みの袋に入れるなど清潔な状態で提供してほしい。本格的なSM設備を備えていても清潔さがないと、利用したくありませんからね。

荊子(いばらこ) 空間造形アートの表現として「包む」「縛る」なかで緊縛と出会い、本格的な緊縛を学ぶべく緊縛師・雪村春樹氏に師事。2011 年公開の純愛ラブコメ映画「ナナとカオル」やVシネマ、AV の緊縛を担当。女性スタッフのみで制作さ
れた「新世界」シリーズでも緊縛を担当。そのほか、女性対象の緊縛ワークショップやイベント、個人調教などの活動も行なっている。
掲載 LH-NEXT vol.23(2015年1月31日発刊)