[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点> ・・・老朽化の進行への対応

 市場縮小の経営環境下において、集客力を回復させ利益が確保できるリニューアル(=新しい魅力の創出)とは何か。デザインと運営の視点から探る第10 回目の対談。今回は、老朽化が進んだホテルは、いま何をどのように対応すべきか、検討していただいた

築30 ~ 40 年のホテルが増加

―1985 年の新風営法施行直前に駆け込みオープンしたホテルも多いのですが、それらもすでに築30 年。築年数が経過し老朽化が進んでしまっているホテルが増えています。
嶋野 確かに築30 年、40 年のホテルが多くなっています。しかし、築年数イコール老朽化ではありません。築年数はかなり経っていても、これまで適切な改装や修繕を施し、老朽化していないホテルもあるわけです。
 老朽化の定義は難しいところですが、まず、外観が古さや汚さを感じさせるようになってしまっているホテル。そして、客室内では内装や什器に汚れや傷みがあり、臭いがあり、空調や給湯にも問題があるようなホテル。都市部では、ファサードは手を加えて綺麗な印象でも客室内に一歩入ると老朽化が進んでしまっているといったホテルも少なくありません。一方、地方郊外などでは、外観・客室ともに老朽化が進んでしまっているホテルも多いように思われます。
関口 老朽化による問題は、建物・躯体や内装よりも、やはり設備ですね。ボイラー、受水槽、配管、空調、キュービクル等々。これらの基本設備は確実に経年劣化します。劣化が進めばお湯の出が悪くなったり、水漏れしたり、空調の効きが悪くなったり……さまざまな不具合が出てきて、そのまま営業していては確実に客離れが進みます。ただ、利用者にとっては、これらの基本設備は問題なく機能して当たり前。維持管理できているからといって集客の訴求力となる要素ではありません。しかし、これらの劣化に対処すべく入替えや整備をすれば大きなコストがかかる。現在の市場環境を考えると、売上の上限がかなり低下している地域もありますから、基本設備も含めた大規模改装となると、追加投資を回収できるだけの売上増加が見込めないケースが少なくない……。
嶋野 そのため、近年の改装では、集客に直結する表装変更のみというケースも多い。しかし、見た目のイメージが一新されても、お湯の出が悪かったり、排水口が臭ったりすれば、次の来店にはつながりません。
関口 この数年、客室の表装は変更してもコストのかかる浴室・水まわりはそのままというホテルも多かった。でも、客室が綺麗になったことで浴室の老朽化が目立ってしまうことも……。もちろん、事業ですから、回収できる改装コストを見極めることは重要。そこで、基本設備に関しては、いわば“ 騙し騙し” で営業していくことになる。ボイラーが不調になれば修理する、水漏れすればその箇所のみを修繕する……。問題が出た箇所を部分的に、その都度、修繕していく。ただし、これは、やはり短期的な対処でしかないですね。
嶋野 商圏の状況を的確に判断して、回収が見込めるのであれば大規模改装を。難しければ、ローコストでの表装変更等で集客力を維持しながら基本設備は部分的な修繕を繰り返していく。同時に、経営者が高齢化しているなら売却という選択も考えたほうがいいと思います。
関口 最近では、低額でも売却できない物件も少なくありません。基本設備の入替えを伴った追加投資が必要で、商圏の状況もよくない。低額で取得できても求める利回りに達しない。
嶋野 借入れが残っていれば廃業はできない。こまめに修繕しながら少しでも延命を図り、その間に出口をどうするか判断する。長年、手塩にかけてきたホテルを売却する、それも低額で……。経営者にとって辛いことはわかります。しかし、低額でも売却できるのなら売却したほうがいいケースも少なくないように思います。 
関口 開業当初の事業計画には修繕積立の項目を設けていても、途中からないがしろにしてしまったホテルも多い。それが基本設備等の劣化に対処できない状況を生じさせている理由の一つです。設備は確実に劣化する。ホテル事業において、中長期的視点から修繕費の積立は、やはり極めて重要ですね。

―売買の際に、建物に関してとくに重視するチェック箇所とは。
嶋野 客室の壁や床、什器備品は問題があっても変更に大きなコストはかからない。詳しくチェックするのは、やはりボイラーや配管の状態ですね。
関口 キュービクルも20、30 年前のままだと現在では容量が足りない。容量を増やすには増設が必要となります。実際に、容量不足で電気ポットと電子レンジが同時に使えないようなホテルも見られます。

継続か売却か先延ばしせずに決断を

―老朽化が進むが、大型投資をせずに営業を継続したい。そういったホテルも多い……。
嶋野 基本設備が何とか使えるのであれば、ローコストで表装変更、あるいは装飾やベッドライナー・クッション等のファブリック、備品等を変更してイメージを一新。それを写真撮影して看板等で外部に告知していく。そういった手法で少しでも売上を伸ばしホテルの延命を図る。その間に、中長期的視点から基本設備の変更まで実施して事業を継続するのか、あるいは売却するのか、判断していく。
関口 床・壁・天井の表装を変えて什器を入替えて、1室100 万円程度。これが売上アップにつながる最低ラインではないでしょうか。
嶋野 コストを抑えようと、自分たちで表装変更する、あるいはホテル施工経験の少ない工務店を使うホテルも見られますが、利用者にとっての魅力や使い勝手の向上につながらないケースも散見されます。これでは工費を抑えても意味がありませんから、注意したいところです。
関口 コストを抑えるために、壁や天井の下地を取り壊さずに現状の上にコンパネを貼ってクロスを貼るような手法もあります。ホテル施工経験の豊富な設計事務所や施工会社なら、さまざまなコスト抑制の手法・ノウハウがあるので、それを活用したほうが、最終的な費用対効果はいいと思います。

―外観はついては。
関口 足場を組んで外壁の補修や再塗装をして、現在風のファサードや看板を付け加えるとなると、やはりある程度のコストが必要です。ただ、外装に関しても、上層部は手を加えず、利用者の視野の範囲となる1、2階部分だけを変更するなど、アイディア次第で、コストを抑えながら効果的な変更は可能です。

―老朽化してしまったホテルこそ将来を見据えた取組みが必要……。
関口 ここにきて金融機関の融資も受けやすくなってきていますから、後継者がいて将来の可能性のある商圏なら、長期的に収益が確保できるように前向きの老朽化対策を目指すべきだと思います。ただ、商圏の市場環境が厳しい地域で後継者もいないような場合は、残念ですが、売却・廃業という選択も必要ではないでしょうか。 もちろん、現在の商圏環境が厳しくても、数年後にはホテル数が減少して供給過剰が解消されるケースもあり得ます。そこで、もう少し頑張りたいというのであれば、繰り返しになりますが、基本設備はこまめなメンテナンスと修理で何とか維持し、コストを抑えた表装変更等で集客力も維持していく。何もせずに老朽化がさらに進んでいけば、供給過剰が解消されたとしても、利用者は増えないと思います。利用者は、残ったホテルに均一に分散するのではなく、選ばれたホテルに集中することになると思います。
嶋野 実際に、地方郊外で市場環境の厳しい地域で老朽化しているホテルの経営者からの相談も増えています。そういったホテルで、最も避けなければ
ならないのは“ いつか景気が上向くのでは”“ 周辺ホテルの数が減るのでは”と考えて、現状のまま何も動かず営業を続けることです。確実に売上は低下し続け、収益が出なくなり、売却も再生もさらに難しい状況に陥ってしまいます。
 昨年から、改装するホテルが増えており、多店舗企業の物件取得・改装オープンの動きも活発化しています。そういった老朽化からの再生を図った店舗を視察する、その集客・売上の変化を調査・分析する。そして商圏の市場状況を再度確認する。そのなかで、自社ホテルの今後を決断していく。経営者一人で悩んで結論が出せないのであれば、運営・コンサルティング企業等に相談して、客観的な視点からのアドバイスを受けることも、必要だと思います。

■連載バックナンバー
[リニューアル対談 特別編]<デザインの視点・運営の視点>・・・地方ホテルの活性化
[リニューアル対談⑧]<デザインの視点・運営の視点>・・・非日常性を再考する
[リニューアル対談 特別編]<デザインの視点・運営の視点>・・・商売と商業施設としての基本を重視、“変化”がお客様に伝わる改装が必要
[リニューアル対談⑥]<デザインの視点・運営の視点>・・・単価アップと集客力
[リニューアル対談⑤]<デザインの視点・運営の視点>・・・シティ・ビジネスとの競合に打ち勝つ
[リニューアル対談④]<デザインの視点・運営の視点>・・・ローコストリニューアル
[リニューアル対談③]<デザインの視点・運営の視点>・・・客室空間の再検討
[リニューアル対談②]<デザインの視点・運営の視点>・・・立地特性の変化への対応
[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点>・・・現状の問題点と対応策

PROFILE

㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に30店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴25年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.23(2015年1月31日発刊)