[リニューアル対談]特別編<デザインの視点・運営の視点>・・・地方ホテルの活性化

 デザインと運営の視点からリニューアル手法を考える連載対談。今回は特集に合わせ、地方立地の1ルーム1ガレージ型ホテルの集客・売上を回復させるために求められる運営改善と改装の手法を検討していただいた。

最新の情報を収集しサービスのレベルアップを

――地方のホテルの現状をどのように見ていますか。
嶋野 地方と大都市圏の格差が指摘されていますが、ひと口に地方といっても、関東圏の地方と、関東圏以外の地方ではやはり状況が違います。前者は地域によっては高売上を持続しているホテルもある。しかし後者では、やはり景気が回復しておらず、全体的に低迷が続いている状況といえます。もちろん中心都市で繁華街を控えた立地と郊外の立地では状況が異なりますが、ともに限られたパイのなかでの戦い。1軒のホテルが改装して組数を伸ばせば、その分、他のホテルが減少するという状況。それだけに地方ほど、売上を確保するためには地域1番店であることが求められるともいえます。
関口 大都市圏のホテルと比べると、ハード面よりも各種サービスなどのソフト面が明らかに弱いですね。
嶋野 老朽化が進んでしまったホテルが多いことも確か。しかし、改装しても訴求力のあるサービスを提供しているホテルが少ない。無料貸出のシャンプーを用意していても4、5本程度。これではすぐに品切れ状態になってしまう。そもそも「こんなにたくさんある!」と驚かせて好印象につなげる意図なのに「数多く置くと持って帰られてしまうから」と。サービスの意識を変えてもらおうとしても「地方のホテルはこれでいい」「うちのホテルはこのスタイルでやってきた」という経営者や支配人も少なくありません。
関口 その結果、10年前、20年前と変わらない客室内容、サービスで営業を続け、集客力も低下していく……。
嶋野 人口減少や景気回復の遅れを嘆く前に、改善すべき点がたくさんある。客室は一生懸命に清掃してキレイな状態でも、看板は10年前のままといったケースもあります。色褪せて文字が剥げかけた看板を見て、そのホテルに行きたいと思う人はいないでしょう。
関口 やはり情報不足を感じます。限られた関連業者からの情報しか入ってこない。都市部の最新の流行っているホテルを自分の目で見て、必要な要素を吸収していくことが必要です。
嶋野 地方に進出した多店舗展開企業のホテルは、やはり集客できています。外観や看板の見せ方もサービスも、関東圏のホテルであれば一般的な
内容でも、お客様からは周辺ホテルにはない魅力に見える。打つ手はたくさんあるといえます。

サインの見直しと敷地内の整備・演出を

――地方のホテルにおいて、追加投資と効果の判断は。
嶋野 先日、地方の経営者から「1億円かけて改装すれば売上は大きく向上すると指摘され検討している」と、相談を受けました。私は「ちょっと待って下さい」と。改装後に回収できる投資額なのかどうか、商圏の状況を十分に検証しないで大規模投資をするのはリスクが大きすぎます。
関口 どれだけ伸びシロがあるのか、その判断が重要です。商圏内の地域1番店の売上を上限とみて、改装後にどれだけ集客・売上を伸ばすことができるのか。借入と返済も考慮して、適正な投資額を算出することが必要です。投資額から逆算して料金を設定するのではなく、その地域、そのホテルのポテンシャルから実現可能な客単価と集客数を想定して投資額を決める。現在は、高稼動が難しいだけに客単価が重要。エリア全体で客単価が低下している地域では、とくに慎重に判断しなければならないと思います。
嶋野 地方でも客単価が維持できている地域は少なくない。そういったエリアで攻めの取組みをすれば、確実に売上は伸びます。
関口 また、集客向上のための改装と、老朽化した建物・設備の修繕とは別物。ホテル事業として、後者は必要不可欠なコストと考えなければなりません。

――地方に多い1ルーム1ガレージ型の改装時のポイントとは。
関口 どのような客室なのか、外からわからないホテルが多い。これでは客室を選択できません。まず、客室写真や設備の告知など、ガレージ周りのサインを見直す必要があります。
嶋野 古くから営業しているホテルでは、ガレージが狭く駐車しにくいところも多い。天井高も低くてワンボックスカーだと不安になるホテルも……。
関口 駐車場は、柱の位置などもあって構造的に変更が難しい建物が多い。
嶋野 離れた場所に駐車させれば利便性が失われる。柱にLEDを取付けて目立たせるなど、少しでもガレージに入庫しやすい状況をつくることが必要かもしれません。
関口 そしてもう一つ、敷地内の演出が必要だと思います。ゲートを入り駐車するまでの間で、どのように非日常感を演出していくか。嶋野 白とブルーを基調にエーゲ海をモチーフにした演出を施しているホテルがありましたが、とくに女性に対して強い訴求力となりますね。
関口 1ルーム1ガレージや戸建てホテルは敷地の面積が広いだけに、外構工事にはコストがかかる。それで手を付けられないホテルが多い。でも、外構部分はお客様の第一印象を大きく左右する要素であり重要です。

4号営業から新法への変更は慎重な判断を

――1ルーム1ガレージ型を新法に変更するケースも見られますが……。
嶋野 改装や看板の問題から新法に変更するケースも見られます。しかし、地方に行くほど“顔を指す”ことに抵抗を感じるお客様が多い。やはりフロント対面は、集客のネックになります。
 1ルーム1ガレージのホテルが、改装を機に新法に変更したところ売上が30%以上低下したというケースもあります。そもそも1ルーム1ガレージではフロントの位置も難しい。そのホテルも、ガレージからフロントへ、そして客室への動線が長く分かりにくくなってしまっていた。その後、運営努力で売上は上昇傾向を示しているものの、改装前の4号営業時代にまでは回復できていません。

――集客力向上につながる改装は。
嶋野 露天風呂は訴求力が大きいのですが、目の前に森や川があるなどロケーションがいいところほど、虫や蛇が出やすい……。
関口 管理の問題だと思います。山の中の人気の温泉旅館などで、虫や蛇のクレームがあるという話は聞きませんから。しかし、レジャー・ラブホテルでは、館外の整備・管理まで手が回らないところが多い……。管理ができれば大きな集客力になるはずです。

――その他、改装時の注意点は。
関口 4号営業では、やはり既得権を喪失しないように改装内容への注意が必要です。とくに地方では、所轄によって規制の温度差があることも事実です。まずは、ホテル側が風営法の改装に関する正しい知識をもち、そのうえで所轄に改装内容を確認していくことが必要です。
嶋野 地方は、横並び意識の強いエリアも多い。周辺ホテルにないオリジナリティを客室内装やサービスで打ち出すことも有効です。4号営業の1ルーム1ガレージや戸建てには、プライバシー確保のメリットがあり、外構も含めビル型にはない魅力を創出できる可能性もある。商圏の状況を踏まえたうえで魅力の強化を図れば、確実に売上向上につながると思います。

■連載バックナンバー
[リニューアル対談⑧]<デザインの視点・運営の視点>・・・非日常性を再考する
[リニューアル対談 特別編]<デザインの視点・運営の視点>・・・商売と商業施設としての基本を重視、“変化”がお客様に伝わる改装が必要
[リニューアル対談⑥]<デザインの視点・運営の視点>・・・単価アップと集客力
[リニューアル対談⑤]<デザインの視点・運営の視点>・・・シティ・ビジネスとの競合に打ち勝つ
[リニューアル対談④]<デザインの視点・運営の視点>・・・ローコストリニューアル
[リニューアル対談③]<デザインの視点・運営の視点>・・・客室空間の再検討
[リニューアル対談②]<デザインの視点・運営の視点>・・・立地特性の変化への対応
[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点>・・・現状の問題点と対応策

PROFILE

㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に30店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴25年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.22(2014年10月31日発刊)