[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点>・・・非日常性を再考する

 市場縮小の経営環境下において、集客力を回復させ利益が確保できるリニューアル(=新しい魅力の創出)とは何か。デザインと運営の視点から探る第8回目の対談。今回は、需要の喚起につながる「非日常性」とは何か、検討していただいた。

いま求められる非日常性の再考

――現在のレジャー・ラブホテルは、非日常性が希薄になっているという指摘があります。
関口 利用者は、普段の生活環境とは違う空間だから、わざわざ訪れてお金を払ってくれるわけです。レジャー・ラブホテルにおける非日常性は、集客のうえで不可欠の要素です
嶋野 「非日常を創り出すのは難しいし大きなコストもかかってしまう」と言われる経営者もおります。しかし、普段の生活と違えば、それは非日常なのです。豪華な内装を施さなくても、一点豪華主義でも非日常は創出できる。サービス面でもサプライズ感のある演出を繰り返し積み重ねれば、非日常につながります。
関口 業界関係者は、非日常というとどうしても以前のテーマパークのような内装演出や設備を備えた客室空間を思い浮かべがちです。でも、現実問題としてそういった非日常空間は大きなコストがかかり、現在では取り組めない。さらに現在の多くの利用者の嗜好とも違っているように思います。
 いま、求められているのは、クオリティだと思うのです。不況が長く続いたとはいえ、現在の一般消費者の生活レベルは、かなり高い。中流家庭でも、50 インチTV があり、高級なタオルやパジャマを使っている。一方、レジャー・ラブホテルは、この数年、コスト削減を優先したことから、さまざまな面でのクオリティが一般家庭を下回ってしまっているケースが少なくない。利用者の日常生活より高いクオリティを提供する、それが非日常を感じさせるうえで、まず必要だと思うのです。
嶋野 今後、取り組もうと思っていることがいくつかあって、1つが、予約客に対して、高品質なバスローブと、セクシーランジェリーを客室に備えること。また、細かなことですが、洗面周りのアメニティ類はどこのホテルも同じようになっていますから、箱かカゴにまとめてしまい、高品質なタオルをキレイな形状に整えて、それだけを置く。このようなちょっと工夫したサービスや見せ方だけでも非日常感につながると思います。
関口 もちろん、内装デザインによる非日常感は大切ですが、そういった細部にわたるクオリティへのこだわりが、家庭とは違う非日常感につながる。現在の利用者には、奇を衒った空間デザインよりも、クオリティによる非日常感のほうが訴求力は高いと思います。

さまざまな視点から非日常へアプローチ

――非日常を感じさせる空間には、いくつかの方向があると思います。
関口 大きく分けて、リゾート・高級と、アミューズメント、エロの3つの方向がありますね。リゾート・高級の方向で取り組むなら、まず近隣をリサーチして、他のホテルにはない方向を選ぶ。エロの方向に関しては、4号か否かで違いますが、私は4号であっても、露骨な印象を避け、例えばアジアンテイストの空間にミラーを違和感なく組込むといった方向で取り組みたいと思っています。
 一方、アミューズメントの方向での非日常は難しい。冒頭で述べましたが内装で演出するにはコストが大きすぎる。カラオケ、ゲーム、パチスロ等の遊びの設備機器も、規制の問題とニーズの低下で、絞り込まれている……。ただ、郊外立地で滞在時間の長いホテルでは、何らかのアミューズメントの要素がやはり必要です。
嶋野 いまVOD が普及しはじめていますが、せっかく導入するのなら、面積に余裕のある特室などに迫力ある環境で映画が楽しめるムービーブース的なものがあっても面白いと思います。家庭にはない70 ~ 80 インチの大画面TV で音響も充実させて……。
関口 擬似5.1ch スピーカーを追加するだけでも、映画の迫力は全然違います。ホテルでは、大音量の出せない家庭で観るレンタルDVD では味わえない楽しさが提供できるはずです。

――分野別に見ると、まず外観は……。
関口 派手にしなければ非日常感が出せないということはありません。デザイン的な統一感があって「素敵だな、カッコいいな」という印象を与えればいい。そう思われるのは、目立っていることの証ですから。
嶋野 やはり、敷地に入った瞬間から非日常を感じさせることが大切。進入路やファサードに水の演出があるのもいいですね。
関口 水の演出は効果的です。都内の高級マンションでファサードに滝の演出を施した物件がある。我々一般庶民は、その滝を見ただけで「こんなところに住めたら」と憧れの気持ちが湧き上がります。ホテルでも、そういった憧れの印象が必要でしょう。

――共用部については。
嶋野 個人的に「シャングリ・ラ ホテル東京」が好きでときどき利用するのですが、館内にはいい香りが漂い、エレベータにはシャンデリアがあり……、ホテルに一歩足を踏み入れた瞬間に、非日常の世界を感じる。こういった演出が必要ですね。
関口 はい。共用部はとても大切です。客室に至る要所要所に、ホテルのイメージをアピールする演出を施す。それで利用者の気持ちは盛り上がるし、その印象は強く残ります。
嶋野 あるホテルを訪れたら、エレベータを降りると太陽光が煌々と差し込む廊下が……。昂ぶっていた気持ちが萎えて、現実に戻ってしまいました。カーテンで遮光して香りの演出をする、それだけで全然違ってくるはずです。
関口 基本的には太陽光を遮光して照明演出を施すほうが、雰囲気は出しやすいですね。

――では、客室内は。
関口 まず統一性のあるデザイン。この対談で何度か統一感の重要性を述べてきましたが、それは、一般家庭にはない要素だからです。また、家具のクオリティも重要。アジアンテイストもヨーロッパモダンも、実は、凝った家具を使えるかどうかで、雰囲気が大きく違ってきます。
嶋野 コストをかけなくても、ベッドの上に花を置くだけでも家庭にはない雰囲気を出せます。でも、あるホテルで「ベッドの上に花を置きましょう」とアドバイスしたら、メイクさんたちから「どう置けばよいのですか」と質問されてしまったことがあります。経営者は、現場スタッフに花を置きなさいと指示するだけでは不十分だと認識してください。
関口 小物やアメニティをトレーに載せて置くといった方法もあります。そういった細かな見せ方の工夫を積み重ねていくと、家庭にはない非日常的な空間になっていきます。コストはわずか。でも、センスと手間が必要です。

非日常の創出を阻害するネックとは

――非日常が重要だと思いながら、取り組めないホテルも多い……。
嶋野 ホテルの経営者や幹部社員の意識が、まず問題です。「これ以上のことはできない、やってはいけない」といった発想上の自主規制がかかっているケースが少なくないのです。何か新しい魅力を考えようとはしても、効率や経費を優先してしまう……。
 この傾向は、関連業者にも見られます。新しい商材を求めると「扱っていない」「できない」「割高になる」……「現在のラインナップから選んでほしい」と。結局、自分でネット通販やデパートに行って探して購入することになります。
関口 いま、露天風呂にシーン調光や空調を組み込めないかと取り組んでいるのですが、「守備範囲を超えたことをやるリスクを負いたくない」という意識を感じてしまいます。関連業者側にも、これまでにない新しい魅力を経営者と一緒に作り出そうという意欲がほしいですね。
嶋野 この数年、効率優先で、新しい非日常を創出しようという取組みが置き去りにされてきたともいえます。いままでにない新しいことをするには、手間もコストもかかる。リスクもある。でも、その「こだわり」が、利用者に喜ばれる非日常を創り出し、需要の喚起につながっていくはずです。
関口 まず、自社ホテルが利用者の日常を超えるクオリティを確保しているのかどうかを見直す。そのうえで、自社ホテルの利用者層には、どのような非日常の演出が効果的なのかを検討する。いま、その取組みが求められていると思います。

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PROFILE

㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に30店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴25年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.19(2014年1月31日発刊)