[リニューアル対談 (13)]<デザインの視点・運営の視点>・・・いま追加・整備すべき 設備機器は何か

 市場縮小の環境下において、集客力を回復させ利益が確保できるリニューアル(=新しい魅力の創出)とは何か。デザインと運営の視点から探る第13回目の対談。今回は、いま追加あるいは整備すべき設備機器は何か、検討していただいた。

基本設備の整備は集客のベース

――まず、ホテルとして営業するうえで基本となる給水・給湯・空調・電気の設備。改装時にこれらをどうするか。大きなコストがかかるだけに判断に悩むケースが多いと思います。

関口 これらは正常に稼動することが営業の前提条件です。現状をチェックしたうえで入替えの提案をしますが、やはり予算との兼合いで、リスクを理解していただいたうえで見送らざるを得ない場合もあります。ボイラーや空調は、正常に動くかどうか、日々の営業でわかるので経営者も判断しやすい。しかし、配管や防水は見えない部分なので、とくに注意を払ったチェックが必要です。
嶋野 配管は、水質の問題もあるのか、耐久年数がホテルによってかなり違う。年数だけで判断するのは危険ですね。これら基本的な設備よりも、集客上、アピール力になる内装や最新設備にコストをかけたいと考えてしまう経営者も少なくない。しかし、水やお湯の出が悪く空調の効きが悪かったら、致命的です。内装や最新設備を考える前に、整備しなければならない問題です。

――電気設備は。
関口 数年前までは、消費電力が増加傾向にあり、キュービクルの容量不足から増設が必要になるホテルもあったのですが、最近では照明のLED化などで消費電力が抑えられる傾向にあり容量的な問題はとくにないと思います。
 それよりも、問題はエレベータです。製造終了から25~30年で部品供給が停止となるので、築20~30年の建物でエレベータの改修を余儀なくされるケースが出始めています。大きなコストがかかるだけに、事前に計画しておかなければなりません。

――LED化の状況は。
関口 現在、白熱球のダウンライトなどはほとんど入手できません。すでに、否応なくLEDを選択せざるをえない状況です。もちろん節電の効果はありますが、まだ、調光の制御が難しい状況が続いており、シーン調光をやめたホテルもある。調光を伴うLEDの使用に関しては注意が必要です。

――節電や節水の機器というのは……。
嶋野 対策しないよりはしたほうがいいとは思います。しかし、あくまでお客様へのサービスの視点を優先すべきです。水やお湯の出方が弱くなってしまっては意味がありません。とくにシャワーの水圧は、清掃にも関連してきますから、十分に確認してから採用すべきです。

――飲食サービスの充実が進んでいますが、厨房設備の状況は。
嶋野 郊外立地ほど飲食の需要は大きく、厨房を整備するホテルも増えています。冷食のケーキよりも揚げたてコロッケが喜ばれるケースもあり、フライヤーの導入はお勧めです。調理のレパートリーが大きく増やせます。ただし、フロントが調理を兼任しているようなホテルでは、火元に関して十分に注意を払わなければなりません。
関口 飲食需要の大きいホテルの改装時には、厨房の設備や広さだけではなく位置も重要。客室へのケータリングも含めた使い勝手のよい動線は、スタッフの負担に大きく影響します。

――コンピュータ等の弱電機器については。
嶋野 フロント精算に変更したホテルが、フロント精算機を導入すべきかどうか迷われているケースも見られます。従業員の負担減少や不正防止か、その分のコストを他に使うか。経営者の考え方とホテルの状況によって、どちらがよいか一概にはいえません。
関口 改装時の弱電分野にかける費用は、一時に比べてかなり減少しています。コンピュータやマルチメディアのシステムをどうするかは運営側が考えるべきことですが、設計デザインの視点から言えば、客室選別機は、お客様の印象にも関わる要素であり、タッチパネル式の新型タイプは、ホテルのイメージアップに有効だと思います。
嶋野 コンビニボックスやシステム冷蔵庫は、人手と効率とコストの相関関係で判断。深夜1人体制のホテルなどでは、ケータリングの手間を省略できるのは大きい。また、お客様の視点でも、ビールを注文してケータリングされる時間を待つよりも飲みたいときにさっと冷蔵庫から取り出せたほうがいい。私の考え方としては、お客様の視点で必要なものはあったほうがいいと思っています。

集客力に有効な設備機器とは

――顧客満足や集客につながる客室内の設備機器として注目しているのは。
嶋野 まず大画面TVは必要。40~50インチはすでに一般家庭に入っています。しかし60~70インチを置ける家庭は限られる。やはり一般家庭にはないサイズが必要です。せっかくVODを導入しても小さい画面では訴求力が低い。VODを導入するなら、大型TVにリクライニングソファ、傍らにポップコーンや飲み物を置けるテーブルを設置する。最新設備を導入するなら、それを楽しんでもらうシーンの提供が大切だと思っています。
関口 そこで音響の充実も必要です。TVのスピーカーで映画を視聴してもつまらない。家電量販店には2.1chや5.1chのさまざまな音響装置が並んでいます。ということは、一般家庭にけっこう普及しているわけです。家電系の設備機器は、一般家庭よりもホテルの方が遅れていると思います。
 また、現在の若者たちは、スマホで音楽を聴き、写真を撮り、ゲームをしている。でも、客室内でスマホの画面をTVに映し出す、音楽をスピーカーから流す装置を入れているホテルは、まだまだ少ない。ようやく充電器を備え、Wi-Fi環境を整えはじめた状況……。すでに多くの人たちが使っている機能を、ホテルが取り込めずにいる。弱電関連の企業には、こういった部分の対策もぜひ考えていただきたいと思います。

――浴室関連の設備では。
関口 設備自体にこだわるよりも、デザインされた空間を整備することのほうが大切だと考えています。
嶋野 一般家庭にはない第2のベッドルームとしての空間。イスやテーブルがありマットがあり、そこでいちゃつきながら過ごせる空間ですね。シャンプーやリンスの充実だけではなく、もっと多彩なバスグッズを揃えていきたい。遊べる浴室内ならスキンも置くべきだと思います。

――女性向けの美容系・健康系の機器やグッズというのは。
嶋野 美顔スチーマーなど、一時人気がありましたが、いまはあまり使われていません。女性向けの美容系家電やグッズは、流行り廃りが早い。流行り始めのモノを採り入れレンタルしていく。流行への対応を続けることがポイントです。リサイクルショップに並んだらもう流行遅れです。いま注目しているのが美顔ローラー。以前からある商品ですが、安物ではなく高級品をレンタルで提供しようと思っています。
関口 健康系でいえば、マッサージチェアは定番です。実際に、使用率も高い。スペースのある客室には採用しています。

――空間の演出設備は。
関口 やはり照明が重要です。ただし、シーン調光もきっちりとした照明計画のもとで行なうかどうかで効果は大きく違います。露天風呂にシーン調光を用いた例もありますが、お客様の評価も高いですね。
嶋野 観葉植物も照明との組合せで雰囲気を大きく変えることができますね。
関口 最近は、本物ではなく人工のインテリアグリーンをけっこう使います。高額でも質感がとてもよいものがたくさんあります。

――エロ系の設備については。
関口 4号営業で客室面積があれば採用します。ただし、ベッドスペースとは別の空間で完結させる。これから眠ろうかというときに目に入らないようにすることを基本に考えます。
嶋野 浴室内の空間をどのようにエロチックにできるか。今後の課題だと思っています。
関口 そうですね。また、設備というよりグッズですが、いまデンマは定番になっています。ただ、そのまま置くのではなく、置き台やポーチに入れて提供すべきでしょう。
嶋野 設備機器やグッズは、たんに導入して客室内にあればいいというのではなく、どのように楽しんで使ってもらうのか、シーンを考えて提供する。同時に見栄えも考えて提供の仕方を工夫する。それによって同じ設備機器やグッズでも訴求力が大きく違ってくるといえます。

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[リニューアル対談⑥]<デザインの視点・運営の視点>・・・単価アップと集客力
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[リニューアル対談③]<デザインの視点・運営の視点>・・・客室空間の再検討
[リニューアル対談②]<デザインの視点・運営の視点>・・・立地特性の変化への対応
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PROFILE

㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に30店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴25年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.26(2015年10月31日発刊)