[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点>・・・単価アップと集客力

 市場縮小の経営環境下において、集客力を回復させ利益が確保できるリニューアル(=新しい魅力の創出)とは何か。デザインと運営の視点から探る第6回目の対談。今回は消費税増税を控え、単価アップとホテルの集客力について検討していただいた。

消費税増税をチャンスに

――4月の消費税増税に対し、料金をどうするか、まだ迷われているホテルも少なくありませんが……。
嶋野 料金は、基本的にアップすべきだと考えています。内税表示か外税表示かの問題はさておき、最低でも増税分の3%、できればそれ以上の値上げをしたい。消費税増税で経費も増加する。現状維持の料金では利益が出なくなるホテルも出てくると思います。今回、何とか対応できたとしても、すぐに次の10%が控えているわけです。
 私としては、値上げをして利益を増やそうというのではなく、値上げ分を何らかの形でお客様に還元する、ホテルの魅力を強化する、という方向で臨みたい。これまでのマイナスのスパイラルを脱して、プラスのスパイラルに転換できるチャンスですからね。

――現状の料金や利用システムをどのように見ていますか。
嶋野 料金自体が安すぎますよね。20年前よりも安い。それでもまだ料金低下が進む地域もある状況……。料金低下は利益を減少させ、設備やサービスも含め新しい魅力を追加するコストが捻出できなくなり、ホテルの進化が滞ってしまった……。
関口 若者人口の減少や不況だけでなく、それも利用者減少の大きな要因になっていると思います。
嶋野 現状の利用システムは、従来からの宿泊・休憩(フリータイム)と、時間単位のタイムシェアのタイプに二分されます。短時間・低料金のニーズの強いエリアならタイムシェアも有効だと思います。ただし、やはり休憩であっても、長時間ゆっくりと楽しい時間を過ごしてもらうことを基本にしたい。客室内容とサービスのレベルアップを図って、それに見合った料金を支払ってもらう。これが基本にないと、レジャー・ラブホテルは進化していくことができないと思います。
関口 フリータイムの普及に伴って、長時間滞在に対応するため、さまざまなアミューズメント設備・機器を取込み、浴室を充実させ、それによって一般家庭とは異なる非日常性を創り出してきたともいえます。それが、やはり集客力の原点だと思います。
嶋野 実際に、ショートタイムを設けていても、利用のメインはフリータイムというホテルもあります。
関口 やはり一般カップルや不倫カップルは、長い時間、2人だけで一緒にいたいというニーズが強い。そのためには客室の居心地がよくて設備も整っていて飲食等のサービスも充実していることが必要。それらが満たされているホテルは、やはり少々高額でも集客できていますね。
 最近、気になるのが、以前、多くのホテルが導入していた5.1ch があまり見られなくなったこと。大画面テレビを導入しても、音声はテレビ内蔵のスピーカー。いま、家電量販店にいけばコンパクトで手軽なサラウンドシステムを売っている。自宅で、ホテルよりも大画面でサラウンドで、しかもブルーレイで楽しんでいる人たちが少なくないように思います。せっかくVODを導入しても、映像音響のクオリティは自宅のほうが高い……。弱電企業には、自宅を超えた魅力を提供する音響映像のシステムを提案してほしいですね。同時に、リモコンだらけの状況の解決もお願いしたいものです。

再度、追求すべき楽しさと非日常性

――消費税増税の改装等への影響は。
関口 4月以降の建築コストの上昇を考え、増税前に駆け込みで改装したいというホテルも少なくない。しかし、これからでは、現場の職人が手配できずに工事に着手できない可能性が大きいと思います。昨年から、一般のビル工事等も増加していて職人がかなり不足の状態です。これは、オリンピックまで続くと思います。また、輸入建材については、円安の影響も懸念されますが、現状では現場レベルでの価格上昇はそれほど大きくはない状況です。

――景気回復基調のなかでの消費税増税。消費のマインドは……。
嶋野 景気回復の恩恵は、一般庶民にはまだ届いていません。とくに地方はまだ時間がかかりそうです。とはいえ、景気回復の風潮とオリンピック開催も相まって、消費マインドが上向きになっていることは間違いないですね。ニュースなどでも、さまざまな“ プチ贅沢” 志向が報じられている。長く続いた節約トレンドが転換しはじめているといえます。このトレンドを捉えている店舗や企業は、レストランにしても物販にしても、売り方が上手い。一般庶民には少し高いが手が出る範囲の価格で、価格対満足度がとても高い、といった打ち出し方で、財布のひもを緩めさせています。私たちホテルも、もっと売り方を考えていかなければならないと思います。

――現在のホテルの稼動で“ プチ贅沢” の動きは見られますか。
嶋野 一概には言えない……。単価の高い繁盛店では高い客室から売れる傾向に戻ってきたホテルもありますが、まだ低価格訴求が有効な地域も少なくないという状況です。

――“ プチ贅沢” 感を出す改装とは。
関口 客室のどこか一部分を変えてプチ贅沢感を出そうという取組み方には注意が必要です。やはり客室全体の雰囲気が最も重要。以前も述べましたが、客室内の一部変更だからと地元の工務店や経営者自身で素材を選んだりすると、どうしてもその部分だけに目がいってしまい、客室全体の雰囲気が損なわれてしまうというケースが少なくありません。
嶋野 表装や家具を変えて、新しくキレイにしても、建売住宅のモデルルームのような空間になってしまうケースも見られます。これではやはりホテルの集客力となる贅沢感にはつながらないと思います。
関口 外資系のシティホテルに行くと、ベッドは見た目にリッチで寝心地もすごくいい。タオルなどのリネンのクオリティもとても高い。アメニティも有名ブランド品。それがネット予約ならレジャー・ラブホテルの特室料金とあまり変わらない価格。こういった状況を考えると、リネンやアメニティといった細部も含めて、シティホテルのクオリティに対抗できる内容にしていかないと、現在のお客様が求める、非日常を感じさせる贅沢感は出せないと思います。この差が、宿泊客がシティホテルに流れる要因の1つと思います。

――改装内容は変化していますか。
関口 昨年は、改装件数は多かったのですがコストを抑えた小規模改装が主流。消費税増税後の値上げも視野に入れて、融資が難しいなか自己資金でできるだけのことをやろうという動きだったといえます。これは、確かにとても大切な取組み方です。しかし、だからこそ、いま資金調達が可能なら大規模改装をすれば効果は大きいはずです。とはいえ、大規模改装で地域の上限を大きく超える売上が実現できるのかどうか、まだ確信がもてない経営者が多い。それが、なかなか大きな動きができない背景にあると思います。
 この数年、立地の善し悪しが大きく変わり、売上における立地要因の比率がかなり高くなっています。地方でも地場産業や大規模な工場があるようなエリアは経済的に潤っていてホテルの稼動も好調です。立地の見極めがまず大切。そして、好立地であれば、手をかければ確実に売上が上がる環境になっていることは間違いありません。
嶋野 今年は、消費税増税時に単価をアップしても集客できるホテルが売上を伸ばし、単価を上げられないホテルはさらに利益が減少し存続が厳しくなっていく……。
 新たな淘汰が進む状況になるのではないでしょうか。増税後の一時的な消費の冷込みはあっても、全体としてはオリンピックに向けて消費マインドは高まっていくはずです。同時に、人手不足や規制強化等の問題も出てくることが予測されますが、この数年の社会的・経済的要因による売上低下の時代から、個々のホテル自体の内容によって売上が決まる状況になってきたといえます。それだけに、今年は、やはり「楽しいホテルにはお客様が来る!」という原点を、再度、追求していきたいと考えています。宿泊の組数向上は、地域によっては難しいところもある。でも、休憩の価格を上げて同時に組数も伸ばしていくことは可能だと思っています。

■連載バックナンバー
[リニューアル対談⑤]<デザインの視点・運営の視点>・・・シティ・ビジネスとの競合に打ち勝つ
[リニューアル対談④]<デザインの視点・運営の視点>・・・ローコストリニューアル
[リニューアル対談③]<デザインの視点・運営の視点>・・・客室空間の再検討
[リニューアル対談②]<デザインの視点・運営の視点>・・・立地特性の変化への対応
[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点>・・・現状の問題点と対応策

PROFILE

㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に30店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴25年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.19(2014年1月31日発刊)