[リニューアル対談]<デザインの視点・運営の視点>・・・立地特性の変化への対応

 市場縮小の経営環境下において、集客力を回復させ利益が確保できるリニューアル(=新しい魅力の創出)とは何か。デザインと運営の視点から探る第2回目の対談。今回は、立地と客層の変化に対応する改装内容について聞いた。

立地の善し悪しが大きく変化

――この数年で立地の善し悪しが大きく変化してきました。
嶋野 一般論で言えば、やはり車利用の郊外は厳しくなっています。飲酒運転の規制強化、車をもたない若者の増加などの影響は大きいですね。
 一方、繁華街のホテル集積地でも、エリア内での善し悪しの差が顕著になっています。利用者の総数が減少しているなか、集積地に人が流入してくる入口付近の有利さが強まっています。そして、入口付近のホテルは売上げが落ちていないから改装もできる。逆に集客が不利な場所では売上げが低下し改装も難しくなる。その結果、同一エリア内での場所による集客状況の差が大きくなってきています。
関口 集積地全体が集客力を低下させていても、ここぞという場所のホテルは、それほど売上げが低下していません。従来の好立地のなかでピンポイント的に好立地が残っているという状況だといえます。しかし、この数年で、新たに好立地になったという地域はないように思います。
嶋野 地方都市でも、好立地はまだ残っています。近隣に遊びに出ていくような都市がなく、地域内も供給過剰になっていない。そのような地域なら改装で売上げを伸ばせます。
関口 関東近郊でいえば、車を持たない若者が増えたこともあって、足が伸びなくなっているのは確かですね。
嶋野 商圏範囲は確実に狭くなっているように感じます。
関口 現在も売上げがよいホテルというのは、立地が良く、なおかつ宿泊施設としての機能性と快適性が備わっているところです。奇をてらったホテルでは瞬間的に高集客ができても、居心地の良さが伴っていないと持続できません。
嶋野 休憩ならいいけど宿泊はちょっと……というホテルもありますよね。
関口 もうひとつ、ターゲットの絞り込みが従来以上に重要になってきていると思います。どのような客層を狙うのかで、改装内容も予算も大きく違ってきます。
嶋野 供給過剰のなかで、カラオケやネットカフェなど24時間遊べる異業種の競合があり、さらにアダルトグッズもネット通販で買えるしAVもネットで見放題など、従来のラブホテルゆえの魅力が消失している。このような状況のなかで来店してもらうためには、個々のお客様のニーズに的確に応えなければなりません。そのためには全方位ではなくターゲットの絞り込みが必要です。

経営効率よりも“強い思い入れ”を

――改装にかけるコストの見極めは。
関口 商圏内をリサーチして上限の売上を見極めることがまず重要。立地的に、現状の上限を超える可能性があればチャレンジを勧めますが、大きな投資をしても現状の上限を超えられないという立地も多いといえます。
嶋野 地域のトップクラスが1室70万~80万円のエリアなら、本格的な改装をすれば上限を上回ることは可能だと思います。

――現在の改装で、とくに求められることは。
関口 立地を問わず、重要なことは、どこまでイメージチェンジができるかです。イメージが変わらないと大きな改装効果は期待できません。
嶋野 クロスやソファを変えて綺麗になった……。それだけでは集客は維持できても回復はしません。お客様にとって客室が綺麗なのは当たり前のことですから。
関口 最も分かりやすいイメージチェンジは名称の変更です。看板のデザインを変えるなら、名称変更も伴ったほうが、分かりやすい。看板自体は造形を伴うとコストが大きくなってしまいますが、最近増えているグラフィックの看板なら、コストを抑えて大きな変化を示すことができます。

――近年、客室数室と入口周辺だけを改装する手法がよく見られますが。
嶋野 同じ程度の売上げのホテルが何軒かあって、そのなかでもう少し売上げを伸ばしたい、そういった状況では有効だといえます。
関口 ある程度の売上げのあるホテルが現状維持のためにするのならいいと思います。しかし、大幅に売上げが低下してしまったホテルが数室のみの改装をしてもあまり効果は出ません。改装した客室の稼動が伸びても、他の客室が低下する。ホテル内で利用される客室が変わるだけ、といった状況になるケースが多いと思います。

――コストを抑えながら、基本となる機能性や快適性を向上させるには。
関口 まず、客室内のレイアウトの見直しです。ベッドとソファ・テーブルの位置関係を変更するだけで、使い勝手が大きく向上するケースも少なくありません。
嶋野 入室してからのお客様の動きを考えると、おのずから使いやすい配置は決まります。せっかく大画面テレビを導入したのにソファからもベッドからも見えにくい。そういったホテルも実は少なくありません。
関口 もうひとつ、ソファは新しいけどテーブルは古い、カーテンは新しいけどクロスは古い。そういった新旧取り混ぜの状態は避けたいですね。
嶋野 コストを抑えようと、自分たちでニトリやイケアで安い家具類を買ってくる。せっかくの特室なのにソファが安っぽくて全体がチープな印象になってしまうといったケースも。
関口 私としては、改装時にソファやテーブルまで予算が回らないのなら、傷んだ従来品を使うよりもニトリやイケヤでも新しいほうがいいと思います。もちろん、客単価との兼ね合いが重要で、高額の客室ならその料金を納得させるだけのグレードが必要です。そして注意したいのが、業務用と一般住宅用の家具では耐久性が大きく違うこと。一般住宅用は長持ちしませんから短期間での入れ替えが必要になります。

――設備については。
関口 弱電関連の設備は、以前のようなフル装備ではなく、必要な設備を取捨選択するようになってきましたね。
嶋野 個人的な見方ですが、限られた予算なら、設備よりも客室自体と浴室にコストをかけたほうが集客力になると思っています。そして、その写真をいかに外部告知するかが重要です。
関口 写真は重要ですね。私も撮影には、カメラマンとどのようなアングルが訴求力があるのか、よく話し合いながら時間をかけます。この手間を惜しんではいけません。

――4号ホテルの演出については。
関口 昔のラブホテルのように露骨にSM系の設備を設置したのでは、現在のお客様には受け入れられないと思います。拘束椅子を置くとしても、どうすれば現代的にカッコよく見えるのか、それが重要です。壁面の鏡張りなども、高級飲食店のような使い方をすればセンスのよさも同時に感じてもらえる。浴室も単純にマットを置くだけでなくソファとしても使えるような工夫をする。現代のお客様の感性にマッチした形態での演出が必要です。
嶋野 4号なら多種多様の新しい演出が考えられますよね。例えば、浴室の床を鏡にはできませんか。
関口 滑るのが問題ですね。滑らない鏡というのは難しい……。
嶋野 現在、高額な特室を目指して来るお客様が減少しています。しかし、これは不況のせいだけではないと思うのです。4号でオンリーワンの面白い客室をつくれば、少々高額でも目的客を創出できるはずです。ホテルにとって最も避けなければならないのは、お客様が“面白みがない”と感じて離れていくことです。
 現在の若者層のニーズは、確かに低料金です。でも低料金のホテルは客室もサービスも料金相応。「うわぁ~ラブホテルってすごい!」と思うようなホテルに出会わなければ、ホテル離れはさらに進んでしまうと思います。
関口 不況だからいかに低価格にできるかではなく、不況でも集客力のあるオリジナティのある新しいレジャー/ラブホテルを生み出さなければならない。それは、設計デザイナーと経営者がともに新しい提案をぶつけあうなかから生まれると思います。
嶋野 経営効率が最優先される時代ですが、お客様を増やすためには、従来にない面白いホテルを打ち出さなければならない。そのためには経営効率ではなく経営者のホテルに対しての“強い思い入れ”が必要。それがいま最も求められているのではないでしょうか。

<季刊『LH-NEXT』vol.15掲載>

PROFILE

㈱トラスター 代表取締役 嶋野宏見
(しまの・ひろみ)
関東を中心に15店舗を運営受託。コンサルティングにも対応。ホテル歴20年以上のキャリアを活かした運営手法で顧客満足と利益確保を両立。
㈱Hale Design 代表取締役 関口達也
(せきぐち・たつや)
1996年に現設計事務所を設立し、堅実な設計と柔軟なデザインで関東を中心に数多くのラブ/レジャーホテルを手掛ける。一級建築士
掲載 LH-NEXT vol.14(2012年10月31日発刊)