NEXT世代インタビュー3

高校教師を経て12年前にホテル事業に

――貴社がホテル事業をはじめられたのはいつからですか。
松本 川崎市に「ホテル ティアラ」を開業した1992年からです。両親が以前からホテル事業に興味を持っていて、自宅のあった土地に新築。ただ、父が身体を壊していたこともあって、母が中心になって経営していました。当時、私はまだ大学生でした。

――卒業後は……。
松本 高校の教師に。教育実習に行ったときに、人を育てるというのはとてもやりがいのある仕事だ、と強く感じたのです。3人兄弟の長男で将来はホテルを継ぐことになると思っていましたが、教師という仕事をぜひやってみたい、と。「何事もやってみないとわからない」というのが、私の基本的な考え方で、教育実習で魅力を感じた“勢い”で教師になってしまった、というのが偽ざるところです。
 そして、教師を4年間務めた後に、ホテル事業に携わることになった。ただ、経営者も人を育てるという面では、教師と同じ。教師の4年間は、いまの私にとって非常によい経験だったと思っています。

――実際にホテルの仕事に就いてみて、実感されたことは。
松本 まず、24時間365日、休みがないこと。そして、教師という仕事はフェイス・トゥ・フェイスが基本。しかし、この仕事は、まったく逆。お客様に接しない。これは戸惑いましたね。
 ただ、ホテルの仕事に就いて間もないときに、現在40代で活躍されている諸先輩方と知り合えた。そこで、さまざまなことを教えていただいたのです。「お客様に接しなくても、気遣いと気配りが形になり、お客様を感動させることができる仕事なんだよ」と。それで、この仕事がどんどん面白くなっていって、まさに「ハマッてしまった」という感じです。
 そして、もうひとつ驚いたのが、諸先輩方に尋ねると何でも教えていただけたこと。メンバーカードを導入しようと思って尋ねると、ポイント制やメンバー割引のノウハウをすべて教えていただけた。他の業界ではありえない。でも、同時に「できるんだったら真似をしていいよ」という自信の現れのようにも感じた。これはもう「何としてでも喰らい付いていこう」と思いましたね。

――ホテルの仕事をはじめられたとき、お母様は……。
松本 基本的に私が任されたのですが、家族経営でしたから、フロントは私が入れなければ、母だったり父だったり。これではいけない。将来の発展性がない。家族経営から事業に変えていかなければ、と思いましたね。

――ホテルの状況は……。
松本 新築でオープンして6年目だったのですが、オープン当初、1室1か月70万~80万円だった売上げが60万円程度まで落ちていた。サービスは何もなく、いまの時代にこれはないだろうと思うようなコイン式ゲーム機があったり……。
 それで、2年目くらいに低予算の改装に取組み、ブラックライトを入れたり設備の入替え・追加を実施して、売上げが上昇、ピーク時は90万円半ばまで伸ばすことができました。その後も80万円程度を持続。ただ、3年ほど前から低下傾向に転じてしまっています。

――長期にわたり高売上げを維持されましたが、力を注いだのは……。
松本 とにかく、毎月さまざまなイベントをやりました。お客様が飽きないように、毎回、楽しんでいただけるように、と。クジ引きやガチャガチャ、飲食系のキャンペーン、野球やサッカーの優勝チーム当てクイズ、ハロウィンにコスプレで来店されたら割引、等々……。ただ、以前、来店回数の多い上位10組にさまざまなプレゼントをする企画を実施して当初すごい反応を得たのです。しかし、徐々に反応が薄くなっていった。結局、リピーターへの特典というのは、単発ではなく会員システムやポイントシステムといかにリンクさせるかが重要だと思うようになりました。

運営管理や人材育成の分野にも

――貴社は、松本興業とレジャークルーという2つの会社がありますが。
松本 松本興業は「ティアラ」を所有する経営会社で、現在、母が社長で私が常務取締役。レジャークルーは、3年前に立ち上げた運営管理の会社です。
 この仕事に就いたときから、1軒のホテルオーナーでは終わりたくない、事業も拡大したいし、自分も事業家として成長していきたい、と思っていて、そのために立ち上げた会社です。事業を拡大していくためには人材が必要。でも、1軒のホテルだけを経営している状態では人も来てくれませんから。現在、この会社で、ティアラのほかに、運営管理とコンサルティングで3軒のホテルをみています。そのほかインフォメーションやホームページの作成なども、コンサルティングを含めて対応しています。

――社員は。
松本 いま5人。マネージャー2人、ウェブ管理とコンサルティングが2人、経理が1人。実は、高校教師時代の教え子もいます。現在の若者は、不況のなかで定職に就けず、自信を失くして迷ってる。でも誠実で、何かを一生懸命やりたい、と思っている人たちが少なくありません。そういった若い人たちと一緒に、「夢」をもって仕事をしていきたいと思っているのです。

――レジャークルーは、今後、どのような方向に。
松本 人材育成の分野にも力を注いでいきたいと思っています。実は、昨年1月に「ホテル経営者がこっそり教えるパート・アルバイト活用法」という本を上梓しました。まだ、本を書くのは早いのではないかとも思ったのですが、基本が「何事もやってみないとわからない」ですから。パートさんとのコミュニケーションの取り方、プロ化・戦力化の仕方、それをどう売上げにつなげるか。ホテルの現場の経験をもとにまとめたものです。
 私自身、「人との関わり」が好きですので、この分野でも頑張っていこうと思っています。

新しい価値を追求する感動創造業

――現在、業界全体が厳しい環境下で売上げの低下傾向も続く。レジャーホテル事業をどのようにみていますか。
松本 いま、新しい価値を創っていかなければならないと感じています。これまでは社会自体にパワーがあった。だから、人は異性に対してもメラメラと燃える気持ちをもつことができた。しかし、いまは社会自体に元気がない。それが如実に反映されてしまっているように思います。
 確かに、レジャーホテルという業態はなくならないと思います。ただし立地や客層で、ホテルの作り方やサービスなども大きく変わってくるのではないでしょうか。「ティアラ」とは300m程度しか離れていない場所のホテルを運営管理しているのですが、ティアラの周辺は住宅、運営管理ホテルは駅至近、この2つのホテルでは客層がまったく違い、ニーズも違うのです。
 今後、立地に合致したターゲットを見極めたコンセプトづくりから取り組むことが重要になってくるように思います。そのためのアプローチの仕方には「ニーズを売る」のと「ニーズを捉える」のと、2つの手法があるといえます。自ら価値を創造して提供していくのか、マーケットが求めているものを見出して構築していくのか。私は、両方を上手く融合していきたいと思っています。
 また、シティやリゾート、レジャーといったカテゴリーは考えなくていいのでは、とも思っています。レジャーは規模は小さくても、決してシティやリゾートに負けない魅力のあるホテルにできるわけですからね。私たちが売っているのは、単なる客室空間ではない。シティやリゾートにはない独自の感動を提供できる客室空間です。ですから、私たちの仕事は、“感動創造業”だと思って取り組んでいかなければならないと思っています。

――来年1月に迫った政令改正にはどのような対応を考えていますか。
松本 ホテルという建物を建てて商売をしているわけですから、その場所から逃げ出すことはできません。やはり地域に愛されるということが前提になると思っています。住宅街と郊外立地では考え方が異なるといえますが、当社のホテルは、4号に該当する要件を撤去して新法継続でいく考えです。徹底して接客と飲食などのサービスを強化して、それを魅力にしていきたい。
 レジャーホテルという業態は、まだまだ成長過程にあると思っています。つまり飲食等のサービス業から学べることがたくさんある。それらを取り入れて、新しい価値、新しい感動を創造していきたいと思っています。
――今後のホテルづくり、そして人材育成分野のご活躍にも期待いたします。

PROFILE

 松本 明樹(まつもと・めいじゅ) ㈱レジャークルー代表取締役
1971年川崎生まれ、39歳。レジャーホテル歴12年。
神奈川で「ホテル ティアラ」(21室)を経営、ほかに3店舗を運営受託・コンサルティング
掲載 LH-NEXT vol.6(2010年10月31日発刊)