設計者インタビュー――いま求められるリニューアルとは

利用者の目線で基本を再度見直し“時の環境”を捉えた空間を構築する

レジャーホテル業界全体では、まだまだ厳しい経営環境が続く。しかし、確実なオペレーションとサービスに加えて的確な改装に取り組んだホテルは、売上回復を実現できていることも事実だ。では、いま求められるリニューアルとは何か。㈱玄子空間デザイン研究所代表取締役・玄子邦治氏に聞いた。

「やりたいこと」と「やらなければならないこと」

――レジャーホテルの現状と改装の動きをどのように見ていますか。
玄子 売上げの低下に対して、多くの経営者は、追加投資の必要性を感じてはいます。しかし、融資の困難さもあり資金調達が難しいのが実情です。そのなかで、的確な追加投資をできたホテルが売上げを伸ばし、ホテル間の格差が広がってきています。
 以前のような多額の投資による全面改装の数は限られ、1,000万~ 2,000万円といった予算での部分的な改修も多い。しかし、低予算でも的確な追加投資なら効果が数字に現れます。
 ただ、この1、2年の改装の状況をみると“予算ありき” の依頼が増えているように感じます。売上げが低下した要因は何か、改善するために何をしなければならないか、そのためにコストがどれだけかかり、どれだけの回復が見込めるのか。その一連の流れのなかで改装内容と予算を決定するのが本来の取組み方……。売上げが低下し融資も難しいなかで、投下できる予算が限られるという現実はわかります。それだけに限られた予算を最大に活用しなければならない。
 そのためには、利用者動向や競合店舗の動向を含めて、的確なマーケティングが求められます。レジャーホテルは立地産業です。エリアも狭い。経営者自身が、自社ホテルのポジションを把握し、どのような方向で集客し売上げをあげていくのか、明確に捉えていなければならないといえます。

――限られた予算での効果的な改装方法とは。
玄子 スクラップ&ビルドではコストがどうしても大きくなる。既存の建物や造作をできるだけ活かす方法が多くなります。
 ただし、以前から最も重要だと言い続けていますが、利用者の立場から使い勝手のよいレイアウトであることが必要です。客室内の家具、設備、備品の配置は、わずかな高さや距離の違いで使い勝手が大きく違う。ドアを開けて右に行くか左に行くかでも広さの印象が違う。そういった心理的な要素も加味して、最適なレイアウトを提案しています。使い勝手の良い客室は居心地が良く、利用者は敏感に感じ取ります。これは、ぜひ見直すべきです。経営者自身も、実際に客室を使ってみれば分かるはずです。

――外装でのポイントは。
玄子 新規客を取込むうえで、外観や入口周りは重要です。とくにライティング。LEDの使い方がポイントです。最近は海外製の低価格製品も増えている。ただ発色や輝度にバラつきがあり、切れやすい製品もある。コスト面でメリットがありますから、それを理解したうえでの使い方が求められます。

――最近のホテルで、とくに見直さなければならないと感じていることは。
玄子 当たり前のことが当たり前にできていないホテルが少なくないように感じています。お湯の出がよくない、シャワーの水圧が低い、臭いがある……。それらは内装変更の前に改善しなければならない問題です。「やりたいこと」「やらなければならないこと」、この2つは分けて考えなければなりません。「やらなければならないこと」でも、経営者はコストを考えて「まだ大丈夫だろう」と判断しがちです。しかし客室は商品なのですから、あくまで利用者の視点で判断しなければならないはず。1ミリの染みを「まだ大丈夫」とみていると、5ミリになり10ミリになっていく。毎日、見ているとそれが気にならなくなる。しかし、利用者は気付いています。

セックスレスを嘆く前に旧態依然とした形態を変える

――今後のホテルに求められることは。
玄子 例えば、飲食店なら高級店と大衆店が明確であり、店舗の内装も違います。しかし、レジャーホテルの場合、1つの店舗内で客室料金にも幅がある。高額の客室を求める利用者と低額の客室を求める利用者が混在する。それらの仕分けをどうするか、考えなければならないでしょう。商圏人口が多い立地なら、高級あるいは低価格とターゲットを絞り込むことも可能。ターゲットが明確なら、その層に対して訴求力の高い内装、設備、サービスの判断がしやすくなります。
 ターゲットの不明確さとも関連しますが、現在、コンセプトのないホテルが少なくありません。コンセプトにはイメージコンセプトとスタイルコンセプトの2つがあり、まず、これを明確に構築すべきです。例えば、ネクタイを買うにしても、パーティ用なのかビジネス用なのか、合わせるスーツやワイシャツがわからなければ、最適の商品は選べないでしょう。

――今後のデザインの方向は。
玄子 デザインというのは、形の美しさだけではありません。機能もコストパフォーマンスもデザインなのです。それを踏まえて、前述した、機能的で使い勝手のよい空間デザインが、まず求められます。そして、前提条件として、当たり前のことが当たり前にできていること。そこに“時の環境” を捉えたコンセプトに基づいた内装デザインを施す。この考え方は、私がホテルの設計デザインを始めた当初から変わっていません。
 そして、もう一つのポイントは、カップルそれぞれが“カッコよく見える”客室であること。スナックをつくるときには、店舗の主役であるママが店内でどう見えるかを十分に考慮してデザインします。ホテルの客室の主役はカップルです。それを忘れてはいけない。そして現在のカップルの付き合い方は、セックスを伴っていても、セックスが最優先事項ではなくなっている。つまり、従来のようなセックスのための空間が主で快適性が従という位置付けではなく、快適さのなかで気持ちのよいセックスもできる空間、そう
いった主と従の関係が求められていると思います。業態としてはラブホテルでも、形態は時代に適合させて変わらなければなりません。

――利用人口の減少については、どのよう見ていますか。
玄子 若者のセックスレス化が進み、彼女をつくるのが面倒だという若者も増えている。性欲があってもデリヘルで手軽に満たせばいいという傾向もある。これは、文化の問題として社会的に考えていかなければならない……。
 利用人口の減少は、こういったセックスレス化、若者人口自体の減少、不況で使えるお金が少なくなった等々の理由もありますが、それ以上に問題なのは、20 ~ 30年前につくられて現在もほとんど変わらない内容のホテルも多いということ。旧態依然としたホテルに、現代の若者が興味をもたないのは当然だと思います。

――最後に、いま、ホテル経営者に求められることは。
玄子 さらに二極化が進み、廃業ホテルも増えていくでしょう。しかし確実に言えるのは、厳しい経営環境下とはいえ、経営者が真剣に取り組んでいるホテルは売上げが維持できているということです。売上回復には、多額の投資による大規模改装が必要と思っている方も少なくありませんが、決してそうではない。投資額の多寡が問題では
ありません。当たり前のことが当たり前にできていて、“時の環境” を捉えた空間づくり、運営がなされているかどうか。再度、ホテルとしての基本の検証が必要だと思います。

<季刊『LH-NEXT』vol.15掲載>