設計者インタビュー――いま求められるリニューアルとは/㈱KOGA設計 代表取締役 古賀志雄美

問題点を分析し明確な目的で改装に臨み客室の賞味期限、有効期限を延ばす

レジャーホテル業界全体では、まだまだ厳しい経営環境が続く。しかし、確実なオペレーションとサービスに加えて的確な改装に取り組んだホテルは、売上回復を実現できていることも事実だ。では、いま求められるリニューアルとは何か。㈱KOGA設計代表取締役・古賀志雄美氏に聞いた。

目的が明確なら少額改装でも効果を発揮

――レジャーホテルの現状をどのように見ていますか。
古賀 基本的に、レジャーホテルというのは、守りの姿勢で売上げを持続できる事業ではありません。5年経てば経済環境も周辺状況も消費者の価値観・行動も大きく変わる。売上げが低下して「不況だから仕方がない。いまは動くときではない」と何もせず、さらに5年経てばどうなるか。そのホテルは時代のニーズから乖離して、お客様が離れてしまう……。現在、そういった状況に陥っているホテルも少なくないように思われます。
 先日、過去に改装したホテルの経営データを分析していて再認識したことがあります。15年前に大規模改装をしたホテルの例ですが、事業計画通りの売上げを持続して予定通り15年で借入れを返済。このホテルは、ほぼ5年ごとに小規模ながら改装を施してきました。景気の悪化やリーマンショック後で業界全体の経営環境がよくないときにも、少額であっても確実に必要な追加投資をしてきたのです。
 ただし、改装だけでは売上げは持続できません。時代の変化に対応したオペレーションが伴っていることが不可欠です。設計・デザインとオペレーションが二人三脚で、時代の変化に対応していけば、厳しい経営環境下でも売上げは保てるとみています。

――地域差はどうでしょうか。
古賀 ある地域で成功したデザインだからといって、他の地域でも成功するとは限りません。たとえば、居心地の良さと面白さのどちらを重視させるのか。地域のニーズを捉えて、両者のバランスを考えなければなりません。 
 それには、さまざまな状況を想定してどれだけ仮説を立てられるか。それが現在の設計デザイン事務所に求められています。数多くの仮説を検討したうえで結論を導き出すことが必要です。

――近年はコストを抑えた、いわゆるプチリニューアルも多い……。
古賀 プチリニューアルは、集客・売上げを持続させるうえで有効です。しかし、人に例えるなら、骨格や筋肉が正常なら洋服を変えて化粧をすれば見違えるようになる。でも、骨格や筋肉自体に問題があれば、洋服や化粧を変えても問題は解決されない。何が原因で集客・売上が低下しているのか。その分析がまず必要です。ホテルの特徴、欠点、長所を把握したうえでのプチリニューアルと、老朽化した部分をたんに新しくしただけのプチリニューアルでは、効果がまったく違います。リニューアルは目的ではなく、あくまで手段です。自社ホテルの問題は、デザインなのか、動線なのか、運営なのか、その分析がまず必要です。

――改装の周期については、どのようにみていますか。
古賀 20 ~ 30年前は、7 ~ 10年でフル改装を繰り返していました。遊びの表現・演出が耐久性よりも優先されていたからともいえます。いくら売上げがよかった時代とはいえ、これでは利益が残らない。ホテルの客室は商品であり、商品である以上、賞味期限も有効期限もある。これまで私自身、その有効期限をいかに延ばせるかを重視し
て取り組んできました。骨や筋肉の基本部分がしっかりしていれば20 ~ 30年後のフル改装の際のコストも抑えられる。さらに、その間は5年程度での少額での洋服の着替えや化粧の変更で、賞味期限も更新できる。長期的な事業収支を考えると、この考え方は現在も重要だと思っています。

――現在、不況が続き融資環境も厳しい。そのなかでの改装は……。
古賀 不況の影響は、すべての日本人、企業が被っています。そのなかで、生き残っていくためには、やはり体力が必要。体力をつけるために適正価格で集客し売上げをつくる。そのために何をしなければならないか、ということです。十分な投資額が確保できないなら、限られたコストのなかでどうするか。周辺競合店が高級路線なら逆にシンプルさを打ち出す。ただしシンプル=寂しさにならないように照明を従来以上に工夫する。それで集客し体力をつけ、次回には耐久性を考えた内装に変更していく、等々、将来に向けてホテルをどのように成長させていくか、ビジョンをもって取り組んでいくことが求められます。

総合力を蓄えた企業がさらに攻めの展開

――今年の動きをどうみますか。
古賀 金融円滑化法終了の影響なども含め、ホテル売買によるオーナーチェンジが増えていくと思われます。
 この数年、売上げを低下させたホテルが多いとはいえ、経済変化への対応力があり売上げを持続し、体力を蓄えることで資金調達力もつけてきた企業もあるわけです。それらの企業は、いま、事業拡大のチャンスとみているところが多い。その結果、二極化がさらに進むことになると思います

――利用人口の減少傾向については、どのように見ていますか。
古賀 確かに若者人口は減少している。セックスレス化も進行しています。しかし、極論すれば、減少理由を考えても意味がないと思っています。いまホテルを使わない人に、今後、使わせるのは難しい。車に興味がなく免許もない若者に「この車はいいよ」と繰り返し言ったところで購買にはつながらないと思います。
 それよりも、いま利用している人が何を望んでいて、どうすれば自社ホテルを利用してくれるのかを考えるべきです。その結果として、新しい利用者も生み出せる。実際に、改装後のホテルや女性視点の繊細な気配りのあるホテルなどでは「ラブホテルは嫌だったけど、使ってみたらとてもよかった」といった利用者のアンケートをよく見ますからね。

――政令改正後の4号と新法で違いは。
古賀 現状では、それほど違いは出ていないでしょう。4号の一番のメリットは動線、新法は広告です。新法では入口周辺に4面マルチでホテルのイメージやサービスを動画で告知するホテルも出てきましたが、そういった新規客に効果的に告知できる手法が、今後さらに求められてくると思います。

――最後に、現状のホテルの問題点と改善のポイントとは。
古賀 現在のホテルには、一般の生活環境よりも遅れてしまっている部分が少なくありません。スマートフォンが普及しているのにWi-Fi環境がなくネットがつながりにくい。家庭のTVがデジタルなのにアナログで映画やAVを流している。デジタルとアナログでは画質の差は一目瞭然です。これでは、現在の若者に「ラブホテルの感覚は古い」と思われてしまっても仕方がないのではないでしょうか。
 ホテルの客室を構成する要素は、繁盛店も低迷店も同じです。どのホテルにもトイレも風呂もTVも冷蔵庫もある。違いは、どれだけ使い勝手がよいか、その目的を果たすべく機能しているか、ということです。繰り返しになりますが、改装や設備の入替えには、自社ホテルの問題を解決するという目的を見据えて臨まなければなりません。
この数年、他の業種は、淘汰される企業と伸びる企業が明確に分かれ、急激な様変わりが進んでいます。レジャーホテル分野は、その様変わりの速度が遅い。しかし確実に進んでいる。いま、その状況を認識して、事業に臨まなければならないと思います。

<季刊『LH-NEXT』vol.15掲載>